君のいない所で-9
ポッと頬を桜色に染め、抱え込んでいる膝に口元をうずめる園田を指差しながら、
「え、え、え……マジか? お前……その、したことなかったの?」
と、思いっきり動揺しながら訊ねた。
「そうですよ、“園田誠司、まだ誰のものでもありません”」
「え、な、何それ……」
「井森美幸ですよ、知らないんですか?」
奴は、タレントの井森美幸のデビュー当時のキャッチフレーズ、“井森美幸、まだ誰のものでもありません”をパロッたんだと説明してくれたが、古過ぎて俺は知らなかった。
俺も知らないような古いネタを知っているってことは、コイツと俺にはかなりの年齢差があるってことだろう。
「だ、だって……お前いくつなんだよ、どう見ても40歳過ぎてるような見た目なんだけど……」
仮にだ。天使も人間と同じように年をとって見た目も老けていくとする。
園田は若くして死んだとして、天使の仕事に従事するうちに年をとり、こんな風になっちまったのならこの風貌で童貞なのも理解できよう。
しかし、園田は
「あなた、やっぱり失礼ですね。
私は37歳、男盛りのときに死んだんですよ。
天使は年齢という概念がないから、その時のまま年は止まっています。
見た目だってそれ相応でしょ」
と、眼鏡のブリッジを中指であげてから、ビシッとキメ顔を見せた。
「ってことは……37年間、童貞を貫いてきたのか……、すげえな園田」
自然と感嘆のため息がこぼれ、俺は園田のキメ顔に称賛の眼差しを投げかけた。