君のいない所で-8
そうやって笑い合っているうちに、俺の頭の中に一つの妙案が浮かんだ。
「そんなに淋しいなら、俺が天使に転職してお前のそばにいてやろうか?」
たとえ難関でもそれを乗り越え天使になったなら、芽衣子のことも忘れることなく、仕事の合間に彼女の顔を見に行ったりすることができるんじゃないか。
俺は成仏以外の選択肢を見つけたことに、希望の光が差し込んできたような気がした。
しかし園田はあっさりと、
「ああ、それは無理です。
手島さんじゃ天使になれません」
と、俺のアイディアを否定した。
悩むことすらしないで、すぐさま答えを出した園田にムッとした俺は、
「なんだよ、バカにしやがって。
こう見えても俺は結構頭いいんだぞ。
大学の単位だって落としたことねえし、難関乗り越えて大企業の内定だってもらったんだ」
と、反論した。
まあ、仕事はすぐ辞めてヒモになっちまったけど。
「そういう問題じゃないんです。
あなたには天使になる資格がないんですよ」
それでも奴は、俺を受け入れる姿勢を見せずにあっさり突っぱねる。
そんな頑固な園田にイラついた俺は、次第に語気が荒くなっていった。
「なんだよ、資格なんてそんなもん必要なのかよ!
名残惜しいとか適当なこと言って、俺のことバカにしやがって」
「そうじゃないんです。
私だって、あなたが同僚になるのならそりゃあ仕事が楽しくなるなって思ってるんですよ?
でもね、天使になるには清らかな心と……」
「あーあー、どうせ俺は性格が悪いし、性根も歪んだ最低男ですよ。
だけどお前だって、人のこととやかく言えるほど立派な性格してんのかよ!」
もはや園田のフォローなんて薄っぺらくて聞く気も起こらなかった。
舌打ちしながら園田を睨みつけると、奴は少しためらってから、
「清らかな身体を持つ者……つまり童貞と処女しか天使になれないんですよ。
だから、手島さんは天使には絶対なれないんです」
と、少しだけ声のトーンを落として恥ずかしそうに言った。
それを聞いた瞬間、俺は目を大きく見開いて、左手で口を押さえながら、声にならない声をあげた。
コ、コイツが童貞!?
顔を俯かせバツが悪そうにしている園田が、なんとなく遠く感じてしまった。