君のいない所で-7
「あなたは、今まで仕事してきた中で最も印象深い人……ですかねえ。
あなたよりも厄介な人はたくさんいたんですが、あなたはそんな誰よりも世話がやけました。
あなたみたいになかなか成仏に応じない人はわんさかいるんです。
特に、相当の怨みや未練を残して死んでしまった方を担当してきた時なんかは、手島さんと同じように生きてる人に手をかけようとすることも珍しくないから、とにかく間違いを起こさないようつきっきりになるんですよ」
園田はその時の事を思い出してか、深いため息をついてから、さらに続けた。
「だから、今回もまたあの憂鬱なパターンなのかなあって思っていたんですが、あなたはどうもそういった方々とは違っている。
怨みを強く持つ方は、鬼気迫る勢いと相当の覚悟を持ってして無念を晴らそうとしているから、止める時はめちゃくちゃ怖いんです。
しかしあなたの場合は、元来がお調子者なせいか、殺すと騒いでいても全く迫力がないんですよね」
「ひでえ言われよう」
俺は結構な園田の言いようにすっかり閉口してしまったが、不思議と腹は立たなかった。
「そもそも、恋人を殺して一緒に生まれ変わるなんて土台無理な話なんですよ。
お互いがそれぞれの記憶を失いまっさらな状態で生まれ変わるんだから、一緒になれるかどうかなんて確かめる術もないのに。
なのにそれを理解できないバカなあなたは、無謀な賭けに躍起になって、有野さんを手にかけようとしては失敗ばかりで。
かと思えば、有野さんを暴漢から助け出そうとする矛盾した行動をとる。
バカの行動って本当に理解できなくて、ついていけないときもありましたが、なんだか見捨てられないんですよね。
こんなクソ生意気なガキに呼び捨てにされ、ハゲ呼ばわりされ、なんぼ捨て置いてやろうかと思っていたんだけど、ほっとけない。
あなたは絶対友達になりたくないタイプなんですけど、ついついちょっかい出したくなる。
そう思ってしまうのは、なんだかんだ言って、あなたと一緒にいるのが楽しかったからなんでしょうね。
……だから明日手島さんが成仏してしまうのは、正直名残惜しかったりします。
私がこんなこと言っちゃダメなんですけどね」
奴はニヤニヤした顔をこちらに向けた。
「お前、バカバカって随分な言い草だな。
それに俺だってこんな性格の悪い友達は願い下げだ。
いくらお前が俺のことを好きでもな」
俺もにやついた顔を奴に向けてやる。
「自惚れんな、バーカ」
「うるせえ、ハゲ」
憎まれ口を叩き合った俺達は、お互いをしばらく睨みつけ黙り込んでいたが、やがてどちらからともなくほぼ同時に盛大に噴き出した。