君のいない所で-6
思いもよらない答えに、思わず目を丸くした。
「お前、天使になる前は人間だったの?」
「そうですよ。
数年前に私は人間の園田誠司としての生を終え、今のあなたと同じ霊魂の状態のときに、様々な試験を合格して天使に転職したんですよ。
だからさっき難関をくぐり抜けて天使になったって言ったでしょ」
「人間から天使になれるんだ……」
「条件があるんですがね。
とにかく私は選ばれしエリートってとこなんです」
園田は得意気にフフンと鼻を鳴らした。
さっきも大手家電メーカーの営業をやっていたとか言ってたし、コイツは人間だった時も、天使になった今でも、エリートだったのか。
不思議なもので、コイツがエリートと知ると、急に後光がさして見えてくる。
そして同時に、そんなエリートを手こずらせる自分が何だか恥ずかしくなってきた。
しかし、死んでもなお働くなんて、園田にとって働くことというのは、誇りと生きがいそのものなのだろうか。
働くことが大嫌いだった俺には、奴の心理は到底理解できないものだったけど、誇らしげな顔をする奴が少しだけカッコよく見えた。
「じゃあさ、仕事を辞めたくなったらどうすんだよ」
「成仏促進機構に辞表を提出して受理されれば、私も再び輪廻転生の渦に返っていくだけです。
まあ私は辞める気なんてサラサラないですけどね。
大変だけどすごくやりがいがあるし、私には目的があるんで」
「ふーん、楽しいのか。この仕事は」
「楽しいって綺麗事言ってられるような仕事じゃないんですけどね。
はっきり言って休みなんてほとんどないし、かなり過酷です。
でもね、いろんな方に成仏への道を導いていると、考えさせられることが非常に多いです。
感謝、慈愛、無念、不安、心配、後悔、恨み……皆さん成仏される時は様々な思いを抱きながら、天に召されていきます。
人間だけなんですよね、こんなに複雑な感情を持っているの。
だからこそ、死者の皆さんがこの世からお別れする時は、千差万別のドラマができるんです。
そしてそのエンディングをこの目で見届けることができるのが、この仕事の一番の魅力だったりするんですよね。
そして、見届けるたびに思うんです。
人間って、計り知れないなあと」
園田は、自信たっぷりにこの仕事の素晴らしさを語った。
「……じゃあお前の目には、俺はどんな風に映ってたんだ?」
俺が訊ねると、奴はニッと笑ってから口を開いた。