君のいない所で-5
園田は人差し指をコツコツ額にあてる素振りを見せ、しばらく考えてから、
「目を見張るような美人とか色男は私の同僚ではいませんね。
大体、地味で真面目そうな方が多いです」
と俺の方を見て言った。
こんな冴えない奴みたいなのが、成仏促進機構とかいう得体の知れない会社のような所にワラワラと集っている光景が目に浮かんでしまった俺は、心底がっかりしてあからさまに深いため息をついた。
「なんだあ、つまんねえ。
天使ってとんだ期待はずれの存在だったんだな」
「あなた、随分失礼ですね。
これでも私は数々の難関を乗り越え、この仕事に就いたんですよ」
園田はムッとしたらしく、胸元に光る天使の羽根をモチーフにしたピンバッジをつまみ、見せつけるように突き出してきた。
なるほど、これをつけてる者が天使と名乗れるのか。
銀色のピンバッジは、月明かりに反射して白く美しく輝いていた……が、ぶっちゃけ安いアクセサリー屋でこんなのを見たことあるような気がする。
例えようのない美しい容姿とか、天使の輪とか、背中に生えた羽とか、俺の持っていた天使のイメージを一切覆したこの男は、一体どういう経緯で天使になったんだろう。
俺は、園田の仕事に疲れてやつれた貧相な横顔、フランシスコ・ザビエルのように天使の輪状に薄くなっている頭頂部、丸まった背中に浮き出た肩甲骨を順繰りに眺めた。
俺はコイツとずっと一緒にいながらも、芽衣子のことで頭がいっぱいだったから、園田の素性について考えたこともなかった。
この園田誠司という男がどんな奴なのかを、ほとんど知らないままお別れするのも少し淋しいような気がしたので、
「お前ってプライベートは何やってんだ?」
と、質問を浴びせかけてみた。
「私達にプライベートなんてほとんどありませんよ。
毎日毎日山のように人が死んでるわけですから、休む暇なんてないんです。
休みをもらうには、死者の皆さんをサッサと成仏させて、たくさんの人数を捌ければ、ノルマが達成できてわずかな休みがもらえるんですけどね。
私、自慢じゃないけどずっとノルマはこなしてきたんですよ。
今月も始めのうちは調子が良くて、楽々ノルマ達成と思っていたのに、あなたの担当をすることになってしまったがために、とんだ番狂わせになってしまいました。
人間以外に生まれ変わりたいとランク待ちしてる方は、ほっといても穏やかに霊魂としてのマナーを守ってくれるのに、あなたはちっとも言うこと聞かないから、つきっきりで見張ってないといけないんです」
チラッと園田が俺に非難めいた視線を向けてきたので、思わず舌を出して肩を竦めた。
「ってか天使の仕事ってホント人間くせえんだな、ノルマとか……。
お前、そのままサラリーマンとして街歩いていても違和感ねえし」
「そりゃそうでしょ。この仕事に就く前は、私はとある大手家電メーカーの営業やってたんですから。
年季が違いますよ」
と、呟いた。