君のいない所で-4
「それにあの二人があのまま何もなくとも、今度は俺が芽衣子と二人きりになったら何するかわかんねえんだぞ?
なにしろ明日で最後なんだから、やけっぱちになって無理矢理芽衣子を襲うかもしれねえし」
ニヤリと小さく笑うと、園田もつられてニヤニヤ笑った。
「だったら最後の思い出作りにどうぞいってらっしゃい。
できるものならね」
園田も園田で、俺が芽衣子に襲いかかるとは微塵も思ってないようで、たかをくくったように言った。
まあ確かにコイツの言う通り、あんな怖い目に合った芽衣子にそんな真似などできるはずがないからな。
「あーあ、明日で芽衣子や久留米とサヨナラか」
俺は川の向こう側をひっきりなしに走る車のヘッドライトの波を見つめながら、ボソッと呟いた。
静かな夜景と、優しい月明かり。
月から遠く離れた空を見上げれば、星がささやかに瞬いている。
手島茂として見上げる最後の夜空は、晴れていてよかった。
さっきの久留米じゃないけれど、これだけいいムードならキスしたくなる気持ちはよくわかる。
俺だって、隣にいるのがこんな冴えないおっさんじゃなくて、若くて綺麗な女の天使だったら、肩くらいは抱いていたかもしれないのに。
それだけに、園田の横顔を見てると笑いがこみ上げてくる。
なんで俺の担当はコイツなんだろう。
コイツじゃなくて綺麗な女が担当だったなら、芽衣子に未練を残さず素直に成仏してたかもしれないのに。
「なあ、天使にはお前みたいなおっさんじゃなく、もっと綺麗で可愛い女はいねえの?」
俺は園田の顔をまじまじと見ながら訊ねてみた。
年々後退していきそうな生え際、後頭部の薄くなった部分がまるで天使の輪のように見えるのがなんだか切ない。
さらには日本人の象徴と揶揄される眼鏡と、少しだけ主張している前歯。
こんなんが天使なんて、ショックをうけるやつは絶対俺以外にもいるはずだ。
なんで、こんなありふれた容姿の男が天使なんて神聖なイメージのある仕事に就いているのか疑問に思う。
もしかしたら例外なのはコイツだけで、あとは美男美女が天使をやってる可能性だってある。
以前園田は俺のことを“今回の死者は大ハズレだ”なんて言っていたけど、もしそうなら俺こそがハズレくじをひいてしまったはずだ。
俺はふとそんなことを考えながら、園田の言葉を待った。