君のいない所で-21
しばらくそうした後、園田はそっと俺の両肩を掴んで身体を離すと、優しく微笑みかけた。
「……俺は生きる意味なんて考えたことねえぞ」
「でも、あなたは自分の命を自ら終わらせたでしょ?
生きる意味を見出せなかった、これも一つの答えだと思うんです。
生老病死の“生”って、実は一番過酷な苦しみだったりしますからね。
何せ生きてる間に老い、病んで、さらには愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五陰盛苦という“死”以外の人生の苦を全て経験するわけですから。
逃げ出したくなる気持ちはよくわかります、私もそうだったし。
でもね、生きるって苦しみだけじゃないんですよ?
苦しみがある反面、たくさんの幸せだってあるんです。
特にあなたなんて、親から惜しみない愛情を受けてスクスク育ち、素晴らしい友人に恵まれ、可愛らしい恋人に愛されて……。
手島さんの人生って私から見ればすごく幸せだったと思いますよ。
それなのに、あなたは有野さんのたった一度の過ちを許せず、無理心中を謀り自分だけが死んでしまった。
あなたの心の弱さがもたらしたこの結果は、今更どんなに後悔したって取り返しはつきません」
「…………」
園田の優しくも厳しい言葉に、俺は黙っているしかできなかった。
「しかし人間は過ちを起こしても、それを省みて悔い改められる生き物です。
手島さんは、自分の命と引き換えに一つ何かを学び、確実に成長したはずです。
そしてそれはきっと来世で活かされる、私はそう信じていますよ」
俺の両肩を掴む園田の手はとても力強く、そして俺を見つめてくる奴の顔はとても優しく慈愛に満ち溢れていて、まさしく天使にふさわしい風格がそこにあった。