君のいない所で-2
二人の後ろ姿が見えなくなってから、俺はその場にペタリと座り込んであぐらをかいた。
夜露で少し湿った芝生がケツの辺りを冷やす。
「……いいんですか、有野さんのとこ行かなくても」
俺の隣に園田もゆっくり腰を下ろし、遠慮がちに訊ねてきた。
「いいや、もう。
あのダンボールだらけのアパート見たらさすがに辛いしな」
ヘヘッと強がって園田に自虐的な笑顔を見せると、奴は
「じゃあ、この勢いで申請書にサイン下さい」
と、すかさず胸ポケットから折り畳まれた用紙を出してきた。
気を遣うのかと思えば、園田は一向にそんな素振りも見せないでいつもの園田らしさを見せてくれ、思わず苦笑いになる。
「お前さ、サインもらうことしか考えてねえのかよ。
天使のくせに血も涙もねえんだな」
呆れながらそう言ったものの、変に気を遣われるよりも、こうやって無神経に扱われる方がよっぽど気が楽だ。
なんとなくだが、コイツはたった2週間弱で俺の扱いを熟知してしまったように思う。
「いや、私はただ手島さんの気が変わらないうちにサインしてもらおうかと思っただけで……」
「するよ、ちゃんとする。
でも、人間として生まれ変われるリミットは明日の午後4時18分までだろ?
せめて、ギリギリまで芽衣子のそばにいさせて欲しいんだ」
芽衣子のことを諦めたつもりでも、生まれ変わって芽衣子のことを忘れてしまうのをわかっていても、せめて彼女の姿を最後までこの目に焼き付けておきたかった。