君のいない所で-19
口の中で弾ける苦味。
これがキンキンに冷えていれば最高なのに、このオッサンはてんで気が利かない。
そもそもビールと発泡酒の違いもわからないなんて、園田は元々酒を飲むタイプじゃないのかもしれない。
でも俺のために、二人で飲もうとずっと鞄に忍ばせていたのかな?
顔をしかめながら発泡酒を飲んでいる園田は、やはりこの手の酒は苦手と見える。
そんな奴の姿を見てるとなぜか目の奥がジワリと痛んで、思わず舌打ちをした。
まったく、変に優しくすんじゃねえよ。
俺は下を向き、右手で両方の瞼を押さえた……が。
ダメだ……、止まんねえや。
必死でこらえているつもりなのに、覆い隠した手がじんわり濡れてきやがる。
「……手島さん」
俺の様子に気付いた園田はそっと俺の肩に手を置いた。
その瞬間、涙が決壊したダムの如くとめどなく溢れてきて、俺はたまらず園田の身体に腕を回してしゃくりあげるように泣き始めた。
持っていた発泡酒の缶は、いつの間にか俺の手からゴロンと転がり落ち、中身をぶちまけながらアスファルトの上を転がっていく。
「……園田っ、俺怖えよ!
このまま何もかも忘れて自分じゃなくなるなんてイヤだよ!
芽衣子のことだってもちろんだし、久留米だって、親だって、友達だって忘れたくねえよ!
俺には大事なものがたくさんあるんだよ!
なあ、俺が死ぬ前に時間戻してくれ!
そしたら浮気相手と全員手を切るし、ギャンブルだって二度とやらねえ、禁酒して真面目に働く!
今度こそ芽衣子を泣かさない!
必ず久留米より幸せにするから、園田頼む!
俺を生き返らせてくれよお……」
俺は園田の胸にすがりついて、駄々をこねる子供のように泣きじゃくった。