君のいない所で-13
「じゃあ、お前も来世のために天使を目指したのか?
さっき“目的がある”なんて言ってたしな」
さっきの園田の言葉を思い出し、一人頷きながら言った。
「うーん、来世についてはあまり深く考えてないですね。
大富豪の家庭に生まれて贅沢三昧とか、絶世の美人に生まれ変わって男を手玉にとりたいとか、色々憧れはあるんですが、とりあえず平凡でもいいから温かい家庭を築き上げられたら充分です」
実直な園田のイメージ通りの答えが返ってきて、少しホッとしつつも新たな疑問が湧いた。
「じゃあ、お前が天使になった目的はなんなんだよ」
「ある人にもう一度会いたくて、ですね。
天使になれば、その方が天に召された時に担当できると思ったからです」
意外な答えにキョトンとしたが、すぐさま俺は園田の肩を抱いて、空いてる方の手で小指をピンと立てる仕草をし、
「やっぱり女か?」
とニヤニヤした顔を奴に向けた。
すると園田も少しはにかんだように笑って、
「私には結婚を前提にお付き合いしていた恋人がいました。
35過ぎてやっと出来た初めての恋人でした。
彼女は花に例えるならば、バラのような華やかさはないけれど、カスミソウのような控えめな優しさを持つ、清らかで可愛らしい女性でした。
私は彼女をとても愛していて、彼女もまた私を愛してくれました」
と、懐かしそうに夜空を見上げ、ポツポツ思い出を語り出した。
コイツも人並みに恋愛してたことを知ると、なんだか嬉しくなった。
「へえ、お前も隅に置けないじゃん」
と肩を抱いた腕を外し、そのまま園田の身体を肘で突っついた。
他人のノロケ話は嫌いだけど、コイツの恋愛話にはなぜか興味を持ったから、俺は奴に早く話の続きをするようにせがんだ。
「彼女は33歳だったんですが、男性と付き合うのが初めてだったんです。
そんな彼女のささやかな夢は、バージンロードをバージンのままで歩きたいというものでした。
童貞を捨てたかった私には、この生殺しの状態が非常にきつかったんですが、彼女のために必死こいて我慢をしていました。
そんなこんなで一年半の交際の間はプラトニックラブを貫き通したわけです」
「すげぇ、お前偉いなあ」
今度は本気で尊敬の眼差しを奴に向けた。
もし俺が園田の立場だったなら我慢しないか、サッサと別れて違う女と付き合っていたと思う。
「そして一年半の交際を経て、私は給料三ヶ月分の大枚をはたいて指輪を買い、彼女にプロポーズすることに決めたんです」
俺は、その言葉に思わずヒューと口笛を吹いて奴の背中をバンバン叩いた。