君のいない所で-12
「そこまでして天使になるメリットってあるのかよ」
「この仕事に従事すると、賃金の代わりに“徳”というものが積まれていきます。
そしてその加算された“徳”の量により、この仕事を終え、来世に生まれ変わった時にある程度自分の望んだ環境で生まれ変われることができるんですよ。
現世では叶えられなかった夢を叶えるために天使になりたい方が多いんです」
「へえ、じゃあその“徳”ってやつを積めば来世で大富豪になったりしやすくなるのか」
「そうですね、まあ本人の努力ももちろん必要なんですけど。
ここだけの話、数年前にお亡くなりになった世界的に有名なミュージシャンいるでしょ、『スリラー』とか歌ってた……」
「ああ、ネバーランド作った奴な」
「あの方も元天使です」
突拍子のない発言に、ポカンと口を開けて園田を見つめた。
「お前、そんな嘘臭い話あるのかよ」
「本当ですって!
あと日本人で言えばそうですねえ……、『川の流れのように』を歌った……」
「美空ひばり?」
「はい、あの方も元天使です」
真顔で言う園田がかえって俺を担いでいるような気がしてならなかった。
「でもよ、マイケルだって美空ひばりだって、必ず順風満帆な人生とは言えなかっただろ?
波瀾万丈で苦労だってたくさんしてきたはずじゃん」
「まあね、でもさすがに望んだ人生通りに事が運ぶほど神様は甘くないです。
実際、恵まれた環境から転落してしまった方もたくさんいますし、大変厳しい所からスタートしてのし上がった方もたくさんいます。
結局、神様から与えてもらった才能、運、資質なんかを生かすも殺すも本人次第。
天使になるメリットなんて、普通に成仏した人よりも、ほんの少しチャンスを得る機会が多いだけなんですよ。
でもそんなわずかなチャンスを求めて、天使になりたいという方はたくさんいます。
きっと、よほど報われない人生を送ってきたんでしょうかね」
37歳まで異性と触れ合うことがなかった男の言う言葉はやけに重かった。