君のいない所で-10
俺は、長続きはしなくとも10代のうちから彼女という存在がそれなりにいたから、筆下ろしだって相応の時期に済ませることができた。
でもそれは、たまたま彼女がいたからそういう機会に恵まれただけであって、もしずっと女に縁がなかったら、俺だって園田みたいに童貞を貫いていたかもしれない。
そう考えたが、頭の中ですぐに首を横に振った。
いや、俺なら金を払ってでも童貞を捨てに行ったと思う。
女を知る手段なんていくらでもあるはずなのに、コイツはそれを一切してこなかったのだろうか。
我慢強いにもほどがあるだろ。
俺には理解できないことだったからこそ、すごいと言う言葉が自然に漏れたのかもしれない。
それと同時に、俺はとんでもないことをコイツにやらせてしまったのを思い出してしまった。
この純情中年に、芽衣子と久留米の絡みを見張らせ、芽衣子の真意を探らせるなんて、さぞかし刺激が強かったのではなかろうか。
生でアレを見てしまったら、すごいショックを受けたかもしれないし、下手したらコイツにトラウマを植え付けてしまったかもしれない。
俺は、急に申し訳なくなってきて、
「園田さん、ごめんね」
としおらしく謝った。
「何いきなり謝ってんですか、気持ち悪い」
園田は不審そうに俺を見るだけだった。