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閉ざされた関係
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閉ざされた関係-1

「また、会えたわね」
 目の前にいる女の子は微笑んだ。
「私たちが出会って、もう三年になるんだよ。しみじみしちゃうなあ」
「ああ……」
 三年前、姉の葬式の日にリリカと僕は出会った。姉の死を受け入れられない僕を、見ず知らずの彼女はやさしく慰めてくれた。
 ぞっとするほど綺麗な女の子だった。
 透き通るような白い肌。腰まで伸ばした漆黒の髪。しわ一つない真っ白なワンピース。しかし、何よりも死んだ姉にそっくりであったことが僕を惹きつけた。
「アキラも高校生なんだから、好きな女の子とかいないの?」
「別に、いないよ」
 僕はうつむきながら答えた。
 物心ついたときから、僕は死んだ姉のことを好きだった。姉弟としてではなく、一人の女性として好きだった。それが許されないものであったとしても、世間に認められないものであったとしても。
「お姉さんのこと……、考えてるの?」
「え?」
 僕は自分の心を見透かされているようで面食らった。
「私じゃ、お姉さんの代わりにならないかな?」
「代わりだなんて……、そんな……」
 そんなこと思っていない。と、言おうとしたが上手く言えなかった。
 僕はリリカに姉を重ねている。リリカを姉の身代わりにしようとしている。姉と生き写しの容姿で、姉と同じように優しく接してくれるリリカのことを。
「お姉さんの身代わりでもいいわ。あなたに必要とされたいの。あなたの傍に居たいの。例えあなたが……、私の向こうにお姉さんの面影を見ているだけであっても……」
「リリカ……」
 後に続ける言葉を考えていると、彼女は目に涙を浮かべて僕に歩み寄った。
 僕は彼女を抱き止めた。
 彼女は僕を抱きしめた。
 そうすることが必然であるかのように、僕らは抱き合った。
 初めて姉以外の女性を愛しいと感じた。確かに、リリカに姉を重ねているかもしれない。だけど……。
「リリカは、姉さんじゃないよ」
「え?」
「僕は、リリカを姉さんの身代わりにしようとしている。だけど……、それだけじゃないんだ。今の僕には、リリカが必要なんだ」
「アキラ……、ありがとう」
 彼女は涙を拭って僕を見つめる。
何か、照れくさい。これが幸せってやつなのかもしれない。
「そうだ! 僕の家に来ない?」
「え……、アキラの家?」
「うん。母さんにも紹介したいし」
 母には茶化されるかもしれないけど、別に悪い気はしないだろう。それに、姉にそっくりのリリカを見たときの母の反応も見てみたかった。
「ええ。だけど……、まるでプロポーズみたい。家族に紹介したいって」
「そうかな……」
「でも、うれしい」
 彼女は両手を水平に広げ、くるりと一度回った。うれしさを表現したのかもしれない。
 それを見て、僕は耳まで真っ赤になった。多分、幸せなのだろう。
 僕らは黙って手をつないで家まで歩いた。心地良い、沈黙だった。
自惚れかもしれないけど、言葉を介さなくても通じ合える、そんな気がした。
「ただいま、母さん」
 なるべく平静を装って帰りを告げる。だけど、いつもと違って隣にはリリカがいる。
 居間から母が顔を出した。テレビでも見ていたのだろう。
「おかえりなさい、遅かったのね」
 母は僕を一瞥して、また顔を引っ込めた。


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