閉ざされた関係-2
リリカには気付かなかったのだろうか? 特に普段と変わらない様子だった。
多分、玄関の電気を付けていなかったから見えなかったのだろう。あるいは、居間からは角度が悪くて見えなかったのかもしれない。
とにかく、僕はリリカを連れて居間へ向かった。
「えっと……、この子は僕の友人でリリカさん。あ、友人といっても特に親しいというか、懇意にさせてもらってるというか……」
「へ?」
母はきょとんとした表情で、彼女を見ている。
とても驚いた表情。
彼女があまりにも姉に似ているのだから、無理もない。
「えっと、どういうことかしら?」
「うん、その、彼女のことを母さんにも紹介したいと思って……。ほら、ガールフレンドができたら紹介しなさい、っていつも言ってただろう」
ガールフレンド。という言葉を口にしたら、何故かすごく顔が熱くなった。
「と、とりあえず、僕の部屋で少し話がしたいから、お茶と何かお菓子を持って来てよ」
僕はその場から逃げるように、リリカと一緒に自分の部屋に駆け込んだ。
母には茶化されなかったけど、それが余計に照れくさかった。
「ごめんね、ドタバタしちゃって」
「ううん、いいの」
僕と違ってリリカは涼しい表情をしている。僕だけが取り乱していたのかと思うと、また恥ずかしくなった。
しばらくして、彼女はCDラックに目を移した。僕がどんな音楽を聞いているのかに興味があるのかもしれない。
「何か気に入ったCDがあったら流そうか?」
「そうね……、じゃあ、これを流してくれない?」
彼女が手に取ったのは、かなりマイナなビジュアル系バンドのアルバムであった。
僕は騒がしい音楽は好きじゃないので、一度も聴いたことはない。しかし、姉のお気に入りのバンドだったので、形見だと思って部屋に置いていた。
顔も似ていると音楽の趣味も似ているものかと、妙に感心してしまった。
初めて聞くそのアルバムは、思っていたよりも騒々しいものではなかった。不快ではない。いや、むしろ心地良いくらいだ。
少しずつ、気持ちが落ち着いてくる。
急に、眠くもなってきた。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
しばらく、沈黙が続いた。
「アキラ、大丈夫?」
母が心配そうに声をかけている。
また、沈黙が続く。
「アキラ、本当に大丈夫? 部屋に入るわよ?」
少し迷った挙句、母は部屋に入ってきた。
僕は母に微笑んで、聞いたことのない高い声で言った。
「はじめまして、リリカです」
母は私に、奇異の目を向けている。
私はそれに、満面の笑みで返した。
ねえ、アキラ。私はお姉さんの身代わりでも構わない。
黙っていたけれど……、あなたが造り出した幻でも構わない。
私のことを必要として欲しいの。
これからも、ずっと一緒だよ……。