16-9
「鉄弥くん。今さ、この前借りた写真のコピー見たんだけど、今一緒の人は違う人みたい」
「だね。自己紹介っぽいの聞こえたし」
「ってことは....」
「まだ何とも言えないけどさ....」
「あ....お店出るよ...」
伊織達の後に続いて、鉄弥達も間を取って店を出た。
少し距離を取って後に続く。
伊織達は腕を組んでいて、傍目にはカップルでしかない。
鉄弥は複雑な心境でまともに見ていられなかったが、隣でさり気無く二人の後ろ姿を携帯のカメラで押さえている凜子の冷静さには頼もしさを感じた。
鉄弥と暁生の仲に比べれば、凜子はそれほど近くはない。
その冷静さも当然と言えば当然だが、本物の記者というのはこれ以上なのかなとも思った。
246沿いに渋谷方面に歩く伊織達は、やがて並んで立ち止まった。
バス停である。
これは二人も予想していなかった自体で、伊織達から距離をとって考え込んだ。
何かあるにしても三茶近辺で済むと思っていたからだ。
「鉄弥くん、どうする?」
「....そうだなぁ....」
「三茶から出るとは思わなかったね....」
「....俺は、後をついてくよ」
「....え?」
「凛ちゃんは帰りな。どこまで行くか分からないし、遅くなるかもしれないし」
「....でも....」
「いや、ほんとに。巻き込んじゃったのはこっちだしね」
「.........行く。私も一緒に行くから」
「や、でも....」
「一緒に行く。それとも.....邪魔?」
「そんなことはないけど.....」
そうこう言っているうちに、複数のヘッドランプに紛れて渋谷方面行きのバスが近付いて来る。
伊織達に続き、凛子は鉄弥の手を引いてバスに乗り込んだ。