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「でさ、さっきの話。それで凜ちゃんはさ、その人といい感じになったの?」
「えっ.....あぁー、結局ね、何もなかったの。その人もね、多分だけど私のことなんとも思ってなかったっぽいし、私から告白する勇気も無くて...」
「そうなんだ....。でも言うだけ言ってみればよかったのに」
「うーん....それも考えたんだけどね、その人ちょくちょく告白もされてたのに全部断ってて。しかも学年でも可愛い子からだよ?そりゃぁ勝ち目無いっすよ....」
「すげーなそいつ。マジ羨ましいんだけど」
「.........そう、だねぇ.....。あ、煙草吸わなくていいの?」
「え?なんで知ってんの?学校でもバレてないって思ってたんだけどな....」
「あっ......え.....これでも記者の卵なんで....」
「気が早いにも程があるわ」
「そう、だよね.....そういえばさ、暁生くんと伊織さんてなんで付き合ったの?」
「えーっとね、逆ナンみたいな」
「っえ?」
「なんかさ、あんまり詳しくは教えてくれないんだけど、暁生がナンパされて、付き合ったって。あれ、暁生からナンパだっけ。忘れちゃった」
「へー.....暁生くん、意外....」
「そう?あいつ結構軽いよ。前の彼女は暁生からナンパしたみたいなもんだし」
「私にはよく分かりません...」
「俺も。でも今の.....あの伊織って人とのことは元も誠も全然知らないんだよね。暁生、その伊織さんの家にも行ったことないらしいし」
「ふーん......あっ」
新しく来店した男性客が、伊織の席に着いた。
なにやら話を始める。
凜子に促されて軽く振り向いた鉄弥は、さり気無く煙草に火を点けながら耳を澄ました。
他の客の話し声やBGMで詳細までは聞き取れないが、自己紹介のようなやり取りが聞こえる。
と言う事は、初対面か。
凜子が言っていた出会い系利用説がますます現実味を帯びてくる。
同時に、込み上げる怒り。
暁生を思うと今すぐにでも伊織の目の前の男を殴り飛ばしてやりたい。
とは言っても、まだ、分からない。
何かの打ち合わせかも知れない。
問題はその「何か」だが、それが分からないとどうしようもない。
鉄弥は煙草と共に苛立ちを揉み消した。