16-7
「あ、ごめん。言いづらかったら無理して言わなくても....」
「いや、そんなんじゃないんだけど....ちょっと恥ずかしいなーと...」
「どゆこと?」
「いやー.....あのね、好きな人がいて。その人のことを周りに聞きまわっているうちにそういうのが楽しくなって.....」
「あっ、あぁー.....」
好きな人。
初めて聞いた。
凜子とは古い馴染みだが、こんな言葉が出るなんて思いもしなかった。
しかし、鉄弥がそうであるように凜子も年頃である。
当然かとも思いつつ、自分は何も知らないという虚無感に襲われた。
「なんかごめんね、そんな下らないきっかけで....」
「いやいやいやいや、全然下らなくないっしょ!寧ろかわいいって!」
「....え?」
「あ、いや....」
ウブか、俺は。
冷静に思う。
途切れた会話の中、入り口側を向いて座っている凛子が何かに気付いた。
鉄弥もその表情の変化に気付き、振り返る。
伊織だ。
鉄弥の背中側二つ後ろにあたる席に通される。
伊織とは一度だけ顔を合わせたことがあるが、この席ならバレないであろう。
聞き取られまいと距離を縮めて話す。
「凜ちゃん....後ろの人...」
「うん.....ホシですね....」
「デカかてめーは」
「一人だね...」
「後から誰か来るとか?」
「うーん。ま、暫く様子見でいきましょうか....」
後ろに注意を払いながら改めて向かい合うと、凜子の顔が微かに緊張しているのが分かる。
それに釣られて鉄弥も本格的に尾行調査している感覚になった。
しかし変に無言でも怪しまれる。
場を繕う為にも、鉄弥は自然さを装って話し出した。