ほ乃花-2
二つの夢のことを私は思い返していた。
それは風間篤史と私の関係のことだ。
臨月を迎えていたほうの夢の中では、私はまだ彼と婚姻の仲ではなかった。
しかし、確かに愛し合っていた。
彼の勧めで不妊治療に臨んだ私は、結局、ヘラクレスの凌辱によってひどい目に遭う。
それからもう一つの夢。
女子高生の愛紗美との出会いにはじまり、ホームレスに追われる私。
そこでは、私はすでに風間篤史と離婚していた。彼が浮気をしていたのだ。
いろいろあって、最終的に私はヘラクレスの実験台にされたわけだ。
なぜそんな夢を見ていたのか自分でもわからない。
確かなことは、今私のベッドの隣に佇んでいるのがヘラクレスだということだけ。
泉水守人はドアに鍵をかけた。
密室に二人きり──。
「いつ、退院できますか?」
私が訊くと院長はふたたび半身を寄せてくる。
「不妊が改善されたのかどうか、私が確かめてあげましょう」
白衣を脱ぐと、彼はもう医師ではなかった。
彼の視線が螺旋を描いている。私の全身をたどっているのだ。
それからゆっくりと私の肩を、背中を、つづけてお腹を撫でてくる。
「早産、流産、死産、それから人口中絶手術。あらゆる現場を経験してきました」
厳しい口調で彼が言う。
「遺伝子レベルで結果を残さないと、我々医師ははじかれてしまうのです」
「はい」
「奇跡は待っていても起こらない。自ら起こすものなのです」
「先生、私の卵子に奇跡をください」
「奈保子さん……」
彼の手が私の着衣を脱がせていく。たちまちブラジャーとショーツが露わになる。
唇を奪われそうなほど体が密着しているのに、キスはしない。
けれども泉水守人氏の指は確実に治療とは無関係な動きで、入院患者である私のマイナス部分を取り払い、プラスの愛撫を体中にあたえてくる。
いいや、むしろ掛け算の愛撫なのかもしれない。
わざとらしいと言えばそうだけど、女性の扱いに迷いが感じられない。
「はあうん……」
吐息が熱い。
ブラジャー越しに乳房を揉まれて、脚の付け根からショーツの中へもぐり込む指は、クリトリスにいたずらを仕掛けてくる。
じゅわっと果肉がほぐれて、くちゅくちゅと果汁を出す。
すごく濡れているね、と彼は言った。
そんなことありません、と私は否定する。
賢くて美しい女性だと彼はさらに言ってきた。
女は産む性であり、男は産ませる性である。だから自分は悩めるすべての女性に手を差し伸べるのだと、彼は熱く語った。