に乃花-13
「私、この機械を知っています」
分娩台の隣で不気味な沈黙をつづける機器に目をやり、私はつぶやいた。
それなら話が早いと、院長は顎髭をざらりと撫でた。
ヘラクレス──。
私は夢の中で、その能力を存分に思い知った。
不妊治療という名目で受けた辱めに、女性らしさを取り戻し、胎内で何かが実ったのも否めない。
「私は小村さんには一切手を触れない。やるのはこのヘラクレスです」
院長はかるく咳払いすると、ディルド型の挿入部を私の性器にあてがう。
シリコン素材のスキニーな肌触りが、膣の口径よりも太い圧力をあたえてくる。
先端からローションを噴き出しながら、いよいよ、じゅるっと入ってきた。
「うあ、はん……」
これ、すごい──。
「小村さん、これを口に」
そう言ってハンカチをくれたのは佐倉麻衣だった。
これを噛めという、エチケットの意味があるのだろう。
男の人に聞かれたくない女の声にもいろいろあるのだ。
「ううん、うんっ……」
幾分ましにはなったものの、今日にかぎって体調も良く、声がどんどん溢れてくる。
「子宮口まで届きましたね?」
院長に尋ねられて、私は微妙にうなずいた。
「それではアプリを起動させます。気分が悪くなったら、遠慮なくおっしゃってください」
縮こまって身構える私。
泉水守人がタッチパネルをたたく。
数秒後には私の中の異物が動き出して、涙腺がはじけるように愛液が溢れた。
口にふくんだハンカチをさらに噛みしめる。
「これから内視鏡が入ります。膣内には音波振動が伝わっているはずです」
彼の言葉通り、ものすごい振動が体の内側を揺らしていた。
うごめく突起物は、まるで触手のよう。
「んっ!」
血もかよわない冷酷なマシンが、私のDNAをかき混ぜる。
「おへその下あたりを触ってみてください」
佐倉麻衣に言われるままに触れると、膣内の動きがそのまま指先に伝わってくる。
恥ずかしさにめまいがして、もっと、もっと、アブノーマルな快感に浸りたくなる。
私を治療するそれは、ヘラクレスという名の怪物だった。
「んぐんぐ、んふっ、んっ……」
脳が喘いでいる。頭の中がぐちゃぐちゃなら、局部もぐちゃぐちゃしている。
気づけば私は、いくつもの手によって全裸に剥かれて、乳房と陰部に群がる男たちの餌になっていた。
ヘラクレスの一部が膣から引き抜かれて、そこから湧き出す粘液で喉を潤そうと、誰もが舌を伸ばしている。
「あんっだっ、だめっあっああっ、いやあ、ひ、あ、やめてっ……」
口から落ちるハンカチ。そこから漏れる喘ぎ声。
腰を逃がしても、クンニリングスがどこまでも追いかけてくる。