は乃花-13
私はコンドームを吐き出した。
おなじくコンドームに飽きた佐倉麻衣が、私の乳首を舐めはじめる。
自分はこのまま消えてしまうのではないか──そんな儚い感覚におそわれたとき、淫らな恰好で私は逝き果てた。
卵巣までもが微熱を帯びているようだった。
佐倉麻衣は離れぎわに私の瞼にキスを、そして泉水医師は膣から腕を引き抜く。
白く変色したその手を、評価するときの眼差しでまじまじと見つめる彼。
誰を見るでもなく、私は視線を巡らせた。
おや、と思った。
私を取り囲むスタッフの一人、いいや、彼女はインターンの大学生だろうか。
その子と目が合った途端、私の記憶に、おかしな映像が割り込んでくるようなひらめきがあった。
理由はわからない。
以前どこかで会ったことがある気はするけど、マスクのせいで曖昧な記憶しか浮かんでこない。
あの目がまた特徴的だ。
思いやりがあって、知的で、嘘のない目。
育ちの良さがわかる姿勢をあたりまえに保ち、あたりまえに私を観察しながらメモを取っている。
くしゅっ、とその彼女がくしゃみをした。
ポケットからティッシュを取り出すと、マスクに指をかけてゆっくり外す。
露出した鼻にティッシュを添える彼女。
あの子は、確か──。
私の記憶がよみがえる。
女子高生の愛紗美、あのときの少女がそこにいた。
電車内で痴漢に遭っていた、あの女子高生。
しかしこの記憶には疑問が残る。
いつ?どこで?そんな疑問が飛びまわっている。
先の目覚めのとき、そういえば佐倉麻衣がこんなことを言っていた。
悪い夢でも見ていたのではないか、と。
愛紗美という少女が痴漢されていたのも、夢の中での出来事なのだろうか。
それにしても、どうしてこんなところに女子高生がいるのかも疑問だった。
看護師を目指しているとしても、ここは高校生が出入りできるような現場ではない。
「愛紗美ちゃん?」
私の呼びかけに彼女は無反応だった。
「小村さん」
泉水医師が私の名前を呼ぶ。
「子宮を突かれた気分はいかがでしたか?」
「ええと、あのう、それは……」
「これは問診なので、正直に言っていただきたい」
「とても良かったです……」
「陰核や膣へのストレスはどうでしょう?」
「はい、それもこれも、ものすごくいい気分でした……」
「自分でするよりも感じましたか?」
「いいえ、私は自分でそういうことはしないので……」
「嘘はいけません。あなたの膣内検査で何が出たと思います?」
私は黙ってしらを切る。