は乃花-12
それを、私にもちょうだい──。
秘密のテレパシーで彼女へ気持ちを伝える。
絶頂の後味を振り払って、彼女が私に寄り添う。
「こっちのほうが、口に合うと思いますよ」
割り込んできたのは男性スタッフだった。
男が上で女が下だと言わんばかりの口調で、彼もまた使用済みの避妊具を手にしていた。
私や佐倉麻衣の色物狂いした様子を眺めながら、彼はすでに射精を終えていたようだ。
「不妊によく効きますよ」
彼の差し出すコンドームの中には、出したばかりの精液が濃厚な色をたたえてもたついている。
私が口を開けて舌を伸ばしたところに、精液のしずくを垂らしてくる。
ふわっと生温かい感触が味覚を狂わせた。
そんなものがおいしいわけがないでしょう──。
いいえ、よく味わってごらんなさい。自分好みの味がするから──。
だめ、それはただの排泄物なんだから、すぐに吐き出して──。
飲み込んだってかまわない。女はいつだって男に飢えているんだから──。
二種類の自分がいて、どちらかが嘘を言っている。
まどろっこしく舌を動かす私の口の中に、彼のコンドームが落ちてきた。
佐倉麻衣の口が私の口を貪るように塞ぐ。
ゴム臭くて生臭い、官能的なディープキスだった。
何と何が混ざり合っているのかわからないほど複雑に絡んだ行為を、まわりの人たちは誤解の目で見ているに違いない。
私は同性愛者ではないし、もちろん彼女もそうだろう。
けれども自分の意思では止められない。
妊娠したい女のそばで、妊娠できた女のレズ行為が今まさに行われているのだった。
「くちゅん、はあ、はうん、はうむん、ちゃぷっ、んっんっ……」
口移しで交換される唾液と精液と愛液とが音をたてて、二人の唇にグロスのきらめきをあたえていく。
卑猥にぶつかり合う二つの唇には、誰にも踏み込めない雰囲気が漂っている。
背徳感がたまらない。
「もっとアダルトな女性ホルモンを促してみましょうか」
すでに私の子宮をなぶっている泉水医師は、次の手を打つ姿勢に移った。
彼の手首から先が膣内で奮闘する。
治療はまだまだこれからだともがきながら、私のことを『あちらの世界』へ連れて行こうとする。
オーガズムの世界へと。
瞬間、私は脳の揺れを認めた。
彼の腕の筋肉がひとまわりほど膨張して、子宮に向かってぐいぐいと突き上げてくる。
「ふ……は……ん……ん……」
この快感を医師に伝えたいのに、息苦しくて声にならない。