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春眠の花
【フェチ/マニア 官能小説】

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ろ乃花-1

 私はベッドの上にいた──。

 病院の分娩室ではなく、そこは自宅マンションの寝室だった。

 口のはじからよだれが垂れている。
 相当に寝相が悪かったらしく、掛け布団がありえない方向へすべり落ちている。

 うんしょ、と目覚まし時計の電子アラームを止めて、私はようやく悪夢から目覚めた。

 お決まりの低血圧な目つきで起床すると、思いもよらない事態が自分の身に起きていた。
 それはあまりにも残念な出来事だった。

 またやっちゃった──。

 太もものあたりを二度見すると、パジャマが濡れていることに気づく。
 一人暮らしをしているので、とうぜん自分の仕業だろう。

 今さらおねしょなわけでもないし、消去法でいけば、さみしい女の液だということは明らかだ。

 夢の中で体験した出来事に興奮して、眠っているあいだに発情してしまった結果だろう。
 なんとも恥ずかしいシミが、シーツに地図を描いている。

 絶対にあの人のせいだ──。

 思い出したくもない人物の顔をたどりながら、私はバスルームを目指した。

 そもそも知り合って三ヶ月足らずで、

「奈保子とずっと一緒にいたいんだ。僕と結婚してくれ」

 そう言われた時点で気づくべきだった。

 プロポーズの言葉を信じて籍を入れた途端に彼の性格が変わり、残業があるからと朝帰りをしては、いやらしい香水の匂いを家庭に持ち帰るような人だった。

 私の知らないところで、不特定多数の女の子と会っていたのだ。

 携帯電話でやり取りした履歴を堂々と残してあるのがまた憎たらしい。

 セックスにも不満があった。

 セーラー服を着ろだの、裸にエプロンだの、挙げ句の果てには深夜のアダルトショップへ私を連れ出し、犯されてもおかしくない状況の中で、男性客らに視姦されていたのだ。

 彼とのあいだに子どももいなかったし、離婚を決意するのに時間はかからなかった。

 バツが一つついた。

 離婚歴のある女性にはマイナスイメージがついてまわるのが相場だけど、マイナス大いに結構。

 痛い過去を忘れて前向きな人生を取り戻し、ふたたび女を咲かせることにしたというわけだ。

 シャワーの水圧を押し返す肌の弾力を確かめながら、下腹部の汚れを洗い流す。
 ついでに悪い男運も一緒に流れてしまえばいいのにと思う。

 けれどもどうしたわけか、どんな夢を見ていたのかまったく思い出せないでいる。

 彼と離婚してからこっち、何度かおなじ夢を見ているはずなのに、目覚めるとかならず記憶に霞がかかっている。

 だからといって寝不足になるでもなく、何から何まですっきりした気分で、朝から絶好調なのだ。

 性に奥手な自分がここまでたくさん濡らしているということは、相当リアルな夢を見ていたに違いない。

 時間がもったいないので、この件に関してはあまり深くは追求しないでおこうと思った。


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