ろ乃花-5
黒いスクールタイツは太ももの途中まで下げられ、ガードルを穿いているみたいに脚を飾っている。
そこに重なる白いショーツも、もはや下着としての役目を放棄している。
だとすると、彼らが触れているものは少女自身であり、乙女心そのものなのだ。
もう許せない──。
私は頭に血がのぼって、身動きできない状況にも腹が立った。
声を上げれば彼女は救えるけれど、被害者の心境を考えると、それは二次被害を招いてしまうのだと躊躇する。
ならばどうするべきか。
相手の人数も把握したいけれど、この混雑した車内では特定はむずかしい。
全員は無理にしても、誰か一人を絞り込んで次の駅で引き渡そうか。
女の私が考える策なんて、どれも企画倒れに思えた。
そのあいだにも女子高生のスカートの中では、はげしい悪戯がつづいていて、時折見える彼らの指がひどく濡れているのも気味が悪い。
なかなか決断できないでいる私の目の前で、誰かの携帯電話が彼女のスカート内を狙った。
恨めしいその指がシャッターボタンを押した瞬間、私はそいつの顔を記憶した。
頼りないアナウンスが駅名を告げ、間もなく電車の扉がいきおいよく開いた。
人の流れが外へ向かっている。
私は胸やお尻が押しつぶされるのも気にせず、女子高生の腕をぐるっと組んで、ついでに彼女のスカート内を盗撮した携帯電話をそいつの手からはじき飛ばした。
携帯電話はホームの白線の向こうにまですべっていった。
「ごめんなさい」
私は申し訳ない顔をつくって、そいつに視線を向けた。
女子高生と二人してホームに降りると、当然彼は不機嫌な身のこなしであとをついてくる。
思惑通りだ。
少女の有り様を隠すために、私は急いでジャケットを脱ぎ、ベンチに座らせた彼女の膝にかけてやる。
おどろいた様子で私を見上げる少女の目に、涙の粒が浮いていた。
もう大丈夫よと、笑顔をなすりつける私。
「おい、あんた、どういうつもりだ」
声に振り返ってみると、遠ざかる電車を背景に、先ほどの男性が仏頂面で立っていた。
通勤途中のサラリーマンに見えるこの男性が、痴漢の常習者のはずなのだ。
「電車は行っちまうし、ケータイはこんなだし、どうしてくれんだ?」
擦り傷だらけになった携帯電話を片手に、三十代くらいの彼は若者風を吹かせながら、私との距離を詰めようとする。