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春眠の花
【フェチ/マニア 官能小説】

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ろ乃花-2

 かるくシャワーだけで済ませて、私はバスルームを出た。

 太陽の光がベランダから差し込んで、部屋の内装を白くぼかしている。

 空腹のままで深呼吸すれば、痺れを切らした胃袋が催促の合図を出す。

 ベーコンをかりかりに焼いて、卵は半熟に、厚切りのバタートースト、それにミルクたっぷりのカフェオレをテーブルに配置した。

 携帯電話には留守電メッセージが二件入っていた。勤務先からと、友人からである。
 どちらも大した用ではなかったので、朝の貴重な時間を身支度に費やすことに専念した。

 テレビから流れてくるデイリーニュースを耳に詰め込みながら、鏡の前では勝負の顔ができあがっていく。

 五歳は若返ったつもりでいる。
 しぜんと口角が上向きになった。

 そして私は、裸にエプロンではなく、セーラー服でもない、普通に大人の女性が好む恰好をしてマンションを出た。

 勤務先までは車で二十分ほどの距離だけど、あいにく愛車は点検中なので、今日のところは電車で移動するしかない。

 静電気でスカートが脚にまとわりつくのを省けば、駅まではスムーズにたどり着けたと言える。

 季節の変わり目ということもあり、冬服と春服の入り混じった人波が改札を出入りしていて、私は少し気後れしながらも早足でホームを目指した。

 すごい数の人──。

 サラリーマンとOLと学生、その三種類の人間しかいないのかと思ってしまう光景。

 もれなく携帯電話に気を取られており、そこにしか生き甲斐がないという表情で画面から目を離せないでいる。

 電車が到着してようやく顔を上げたと思ったら、マナーはどこかへ置き去りに、またそれぞれの世界に引きこもる。

 私はどこか納得のいかない気持ちのまま、混雑した車両へと吸い込まれていった。

「扉が閉まります。ご注意ください」

 存在感のないアナウンスをやり過ごすと、さっそく女子学生やOLたちの談笑が細々と聞こえてくる。

 こんな場所でもやはり男性よりも女性のほうが口がよく動く。

 流行性のウイルス対策なのか、マスクをしている人の姿も何人かいるようだった。

 私は、はっとした。

 今朝見た夢の内容に、マスクが関係しているような直感がはたらいたのだ。

 しかし、ヒントと呼ぶにはあまりにも頼りない記憶である。

 わかっていることは、下着を汚してしまうほどの淫らな夢だということくらいだ。


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