ろ乃花-12
「ただいま。愛紗美ちゃん、居るの?」
すると何事もなかった様子の彼女が、制服のスカートを揺らしながら小走りであらわれた。
「おかえりなさい。仕事、もう終わったの?」
そうじゃないでしょう。あんな電話の切り方をされたら、誰だってあわてて帰って来るでしょうに。
女子高生一人きりの部屋に、見ず知らずの人物が勝手に上がり込んできた日には、痴漢なんて生易しい問題では済まないんだからね──。
そんな思いを彼女へ発信した。
彼女もそれなりに何かを受信してくれたようだ。
「あたしのせいだよね?」
「うちに来たのは誰で、何が最悪なの?」
「ああ、あれね、そうそう。じつはね、ケータイの電池がなくなっちゃって、それで今、充電中ってわけ」
「まったく、心配して損したじゃない」
私は思いきりため息を吐いた。
「ごめんなさい……」
彼女も少し反省している様子を見せる。
「それで、お客さんのことなんだけど」
「誰だったの?」
「ドアの穴から外をのぞいたら、誰もいなかった」
「誰も?」
「うん、誰も」
彼女の目は嘘を言っているようには見えない。
女子高生の愛紗美──。
彼女たちの存在はいつのときも需要があって、流行の最先端であり、掴みどころがない。
さじ加減一つ間違えれば、たちまち手に負えなくなってしまう。
そうは言っても内面はやはり少女のままで、体だけが大人に向かって伸びていく、危うい年頃だ。
それはもう性の標的にするには好都合な条件がそろっていて、これまでにいくつの花が犯され、望まない交配を強要されてきただろう。
「愛紗美ちゃん、困ったことがあったら何でも私に相談してね」
少女の未来を摘み取るようなことだけは、絶対にあってはならない。
「それじゃあ、遠慮なく言うけど、じつは一つだけ困ったことがあるんだ」
「まさか、ストーカーとか?」
首を横に振って、思い詰めた感じで自分のお腹をさする彼女。
この子、妊娠してる──。
「とても言いにくいんだけど、あたし……」