『ITUKI』-16
その吸い寄せられそうな目で見られると、こっちがうろたえてしまいそうだった。
「ごめんね。でも聞いてほしいの。大城くんにしか分からないことよ」
「どういうことだ?」
彼女の言い方が気になって僕は聞いた。 二条さんは顔を上げたまま、一歩近づいた。
「私、目を覚ますまでずっと同じ夢を見てたの。すごく寂しい夢よ。
私は一人で、心細くて泣いてた。繰り返し、繰り返し泣くだけの夢だった。
あなたが現われるまではね。」
二条さんは少しずつ、少しずつ僕に近寄った。
僕は黙ったままその場から動くことができなかった。「孤独だった私にとって、大城君の存在だけが何よりも嬉しかった。
目を覚ます最後の瞬間まであなたが近くにいてくれて本当に嬉しかったわ」
目の前にいるのは間違いなく二条さんだった。 それだけは確実だった。
「私、いつきだよ。全部覚えてるんだよ・・・」
ふいにいつきの顔が胸のなかに浮かんでいった。 隠していた気持ちが堰を切ったように溢れだした。
そうだった。
いつきは伊月だったんだ。裏表のあるコインのように二人は一人の人間だった。いつも片方しか見えてなかった僕にはずっと理解できなかった。
何故、いつきが僕の前に現われたのか。
そして消えたのか。
ようやく分かった。
「また、君に会えたね。」僕はそう言って笑った。涙が滲んでよく見えなかったけど、彼女はそこにいる。あの日の卒業式のように、教室で唇を交わしたの時のように、二条伊月は頬笑んでいた。
桜の舞う季節に僕らは別れ、桜の散る季節に再び出会った。
きっと、春がくるたびに僕は思い出すだろう。
この奇跡は・・・彼女がくれたんだって。
「だよな、いつき・・・」
end