君の出した答え-9
芽衣子のダイエットのために、ウォーキングに無理矢理付き合わされて、文句を付けながらもしっかり手を繋いで延々と歩いたりした。
芽衣子と喧嘩した時、たまに俺はここに寝そべって流れる雲を見ながらウトウトすることもあった。
やがて俺が目を覚ますと、いつの間にか隣に芽衣子が座っていて“早く帰ろ”って笑ってくれた。
迎えに来てくれたことが嬉しくて、喧嘩をしたことすら忘れてバカ笑いしながらアパートに帰ったこともある。
また、ここで二人きりで花火をしたこともあった。
ロケット花火やネズミ花火などの仕掛け花火が大好きな俺に向かって、「ムードくらい作ってよね」と芽衣子は呆れていた。
しかし、俺が一気にまとめてロケット花火に火を点けると、一斉に派手な音を立てて散っていく花火を、彼女はキャアキャア騒ぎながら喜んで見てた。
彼女とたくさん過ごしてきたこの場所は、俺にとって特別な場所だった。
……だから。
頼む、芽衣子。俺達の思い出がたくさん詰まったこの場所だけは、俺達二人だけの場所にしてくれ。
届かない想いをグッと飲み込む。
そんな俺に気付くわけがない芽衣子は、街灯の下でしゃがみ込むと、鼻歌まじりで手持ち花火を手際よくバラし始めた。
早速芽衣子は久留米から借りたライターで、手持ち花火に火をつけた。
そして火のついた花火から、また別の花火に火を移してそれを久留米に渡す。
一瞬で煙がモクモクと広がり、火薬の匂いが湿った夏の空気と混ざってくる。
風が吹かないせいか、芽衣子も久留米も煙に包まれていた。
煙に顔をしかめる久留米とは対照的に、楽しそうに笑う芽衣子は、煙などお構いなしに次々と手持ち花火に火をつけていく。
鮮やかに輝くピンクや緑や白い光が、やけにチカチカして、瞼の中で残像が残る。
そういや、今年はまだ一度も花火をやらなかったんだな。
去年の夏、芽衣子は俺に花火大会に行こうと誘ってきたのだが、人混みが苦手な俺は断ってばかりいた。
そして頑なに行きたくないと拒み続ける俺に埒があかなくなった芽衣子は、とうとう久留米に泣きついた。
そして奴に“それくらい連れてってやれよ”なんて怒られてしまって、渋々出掛けたんだっけな。
結局三人で見に行くことになった花火大会だったけど、あまりの人混みに圧倒されて早々に退散することにした。
そしてその帰り道の途中に、通りがかった小さな公園を見た芽衣子が、“ねえ、これから花火しようよ”と言ってきたのだ。