君の出した答え-8
しばらく楽しげに話をしながら歩いていた二人だったが、芽衣子は突然何かを思いついたように走り出し、商店街の並びにあるコンビニに入った。
「おい、芽衣子!」
久留米は、突然走り出した芽衣子の後を慌てて追った。
そして彼女は、遅れて店に入ってきた久留米を見ると、ニッと笑って
「久留米くん、これから花火やんない?」
と、言った。
「えっ、今からか?」
久留米は腕時計をチラッと見た。
俺も店にかけられている時計に目をやるが、すでに10時をまわっていた。
明日も仕事を控えている久留米は難色を示していたが、芽衣子は構わずにサッサと手持ち花火の少し大きめなセットと、ロケット花火の束、ネズミ花火、果ては爆竹までカゴに入れると、それをレジに持って行った。
コンビニを出た芽衣子は、一人でドンドン歩みを進めていく。
そしてそんな芽衣子の後を慌てて追いかける久留米。
スキップでもしそうな軽やかな足取りの芽衣子が向かったのは、人の気配が全く消えてしまった河川敷だった。
俺達のアパートからそんなに遠くないこの河川敷は、整備がよく行き届いていて、昼間は少年野球やサッカーなんかが行われていたり、ジョギングする人、犬の散歩をする人、日光浴をする人なんかで賑わう和やかな場所である。
夜はその顔が一変して、人っ子一人いない寂しい空間になるけど、規則正しく並ぶ街灯が優しく河川敷を照らしていた。
川の向こう岸には、マンションやらビルが立ち並び、立体的に交差した高速道路はせわしなく車が行き交っている。
川を跨ぐ鉄橋は、数分おきに長い電車が走っている。
芽衣子のアパートに転がりこむようになって、彼女から“ここがあたしの大好きな場所なんだ”と手を引いて連れて来られた時に、俺は一目でこの場所が気に入った。
川の向こう岸に見える都会的な街並みと、のどかな河川敷が妙に心を安らげてくれ、俺達はよくここに散歩しに来たり、座り込んでボーッと景色を眺めたりするようになった 。