君の出した答え-16
「こらあっ、お前ら!!」
やたらデカい胴間声が背後から聞こえてきて、俺は声の主の方を振り返った。
同時に久留米と芽衣子もパッと身体を離す。
街灯に照らされて登場したのは、洗濯を何十、何百回と繰り返したであろうダルダルの白いランニングを着て、クタッとしているステテコを履き、底のすり減った雪駄を履いた、いかにも下町の頑固オヤジ風といった、いかつい風貌の男だった。
男は肩をいからせながらゆっくり歩いてきて、久留米と芽衣子の前に立ちはだかると、ギロッと二人を睨みつけた。
「は、はい……。
なんでしょうか?」
不機嫌極まりない表情を浮かべているむくつけ男に、さすがに久留米もビビった様子で、下手下手に伺うように訊ねた。
オヤジは、突き出たビール腹をボリボリかきむしりながら、
「お前ら、今何時だと思ってんだよ?」
と冷ややかに二人を見つめた。
芽衣子も久留米も横に並んで、気まずそうに下を向いて黙り込んでいる。
「おじさんな、朝早くから頑張って働いてきて、ようやく家に帰って風呂入って、ビール飲みながらまどろむ瞬間が一日で一番幸せな時間なんだあ。
んで、せっかくウトウトしてたとこだったのに、いきなり外からピュウピュウ花火の音が聞こえてきて目が覚めちまうし、ギャアギャア騒ぐ声は耳障りだし、いいかげんにしろってんだ!」
オヤジはそんな二人の前で仁王立ちになって、容赦なく怒鳴り続けていた。
至福の時を邪魔されたのが相当頭にきたようだ。
よしオヤジ、もっと言え。
二人のいいムードを見事ぶち壊してくれたオヤジを微笑ましく見やってから、俺はしてやったり顔を園田に向け、ピースして見せた。
「園田、神様っているんだな!
俺の祈りが通じたぞ!」
「神様はですね、そんな下らないお願い叶えるほど暇じゃないんですよ。
夜遅くに花火で騒ぐ輩に苦情を言う光景なんて、よくあることです。
必然ってやつですよ、わかりますか手島さん?」
園田はため息を吐きながら、俺を小馬鹿にした口調でそう言った。
「なんだっていいんだよ、邪魔できるなら。
ざまあみろ、お前ら! 俺の目の黒いうちはイチャイチャなんかさせねえからな」
俺は、こってり絞られている二人の横で、舌を出しながら茶化してやった。
「まあ、邪魔できるのも今だけですからね」
園田は呆れたようにため息をついて笑っていたが、どことなく俺を見る目が淋しげだった。