〈三匹の牝豚〉-1
海は凪いでいた。
防波堤に囲まれた湾内は、油のように水面がベタっと落ち着き、水面の小魚が作り出す波紋までも良く見える。
空は晴れ渡り、照り付ける太陽は真上に位置して紫外線を浴びせている。
そんな暑い空気に淀む穏やかな海面を切り裂いて、貨物船は港へと入った。
『到着だぜ……皆さんご苦労さん』
貨物船到着の無電から数十分。
きっとサロトはいつものように、岸壁で首を長くして待ってるはずだ。
専務は操舵室から船室へと向かい、ドアを開けた。
ムッとした悪臭が途端に鼻をつき、軽く噎せた。
瑠璃子と大翔の排泄物の臭いが、そこには充満していたからだ。
『よう、瑠璃子。お姉ちゃんや妹に会えるといいなあ?』
小さな檻に収まる瑠璃子は、あの日と同じ服を着ていた。
八代の為に選んだキャミソールとYシャツ、そしてショートパンツ。
髪は多少ボサボサで、瞳には力強さが感じられないが、それでも航海の間中、輪姦されていたとは思えないくらい身綺麗だ。
架純は衣服に乱れなどあるはずがなく、髪が少しだけべたついているだけだ。
大翔も相変わらずの姿でいるが、それは別にどうでもいい事だ。
架純は大翔の檻に寄り添い、しっかりと手を握っている。
もうすぐ、二人には審判が下るのだ……。
……と、騒がしいだみ声が通路から聞こえ、ドタドタとだらし無い足音が近付いてきた。
『◎*£§△※×@?』
ひょっこりと顔を覗かせたのは、褐色の肌をしたハゲた太ったオヤジだった。
さすがに異国の言葉が分かるはずもなく、三人は恐怖に表情を固まらせていた。
「……大翔……怖い……」
「だ、大丈夫だよ……」
専務はそのハゲオヤジと何かを話し、瑠璃子を指差してクスクスと笑った。
そして通路から現れた褐色の肌をした数人の男達が、瑠璃子の檻を取り囲んだ。
「やめてッ!!い…嫌……ぶふ………」
瑠璃子はタオルで顔を覆われると、意識を失って檻の中に突っ伏した……そして檻から引き抜かれ、大きな毛布にぐるぐる巻きにされて運ばれていった。
『#☆△@@……×∴¢*……』
ハゲオヤジは専務の囁きに頷くと、いきなり目を見開いて架純を見つめた。
いや、見つめるというよりは、凝視したと言った方が正しい。