追憶タイム 前編-7
「もう一つ。これは単なる想像だけど、あの人、今、気になっている女性がいるような感じがする」
「え? そうなの?」
「って、断定するわけじゃないよ。あくまで想像だよ。ただ、彼の複雑な表情を見てると、今、彼がいろんなことを思いながらもがいているってことはわかる」
「ケンジって、人の心を読むのが得意だったんだね」
「そんなんじゃないよ。ただ、あの人の考え方、感じ方って、俺にちょっと似てる気がする。行動とか」
「やっぱり抱かれない方がいいんじゃない? あたし、あの人に。迷ってる先輩を混乱させたりしないかな」
「いや、もし、俺の考えている通りだったら、かえってミカは先輩に抱かれるべきだね」
「どうして?」
「彼は君を抱いて、心の奥にずっと残っていた想いを全部はき出すことで、亡くなった奥さんへの未練も断ち切れるんだよ」
「あたしの立場は?」
「ミカにも先輩への伝えられなかった想い、ってものがいっぱいあるだろ? それはそれで彼に伝えて、君自身がすっきりしなきゃ」
「そうだね。それは実現させたい」
「彼は君のその想いを受け取って、君との関係を本当の意味で精算するのと同時に、おそらく奥さんへの想いにも区切りがつけられるはずさ」
「そんなものなんだ……」
「だから俺は今夜のことについては何も言わない。君も拓郎先輩も後に引きずらないことがわかってるから」ケンジはコーヒーを飲み干してソーサーに戻した。「今度こそ、きっと本当の意味での最後の夜になるよ。君と拓郎先輩との。だから遠慮なく行っておいで」
「うん。そうだね」ミカは穏やかに微笑んだ。「ありがとう、ケンジ」
「でも、」ケンジは横目でミカを見た。
「え? 何?」
「毎年俺が妹のマユとの夜を過ごした明くる日は、君からきっちりいたぶられているから、俺もそうする」
「いたぶってるか?」
「いつも俺は、明らかに嫉妬している君から攻められてるじゃないか、この夏もなかなかイかせてくれなかったし、去年なんか何度も、尽きるまで無理矢理イかせただろ」
ミカは笑った。「そのぐらいは覚悟しなきゃ。あたし以外のオンナと繋がったわけだし」
「だろ? だったら明日、俺は君をたっぷりいじめてもいいってことだろ?」
「今夜、拓郎先輩とあたしが繋がるって、まだ決まったワケじゃないのに?」
「間違いなく繋がるね」
「何よ、その自信」
「繋がろうと繋がるまいと、結果は同じ。明日、俺はきっちり君をいたぶらせてもらうから」
「ううむ……覚悟しとかなきゃいけないか」
「うん。覚悟しときな」