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Twin's Story 外伝「Hot Chocolate Time 2」〜追憶タイム
【元彼 官能小説】

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追憶タイム 前編-6

 ケンジは店を出て窓の下の通りを小走りで駆けていく拓郎を目で追った。

 不意にミカはケンジの手を取った。
 ケンジはミカに顔を向け直した。
「ほんとにいいの? ケンジ」
「何が?」
「あたしが先輩に、もしかしたら抱かれちゃうこと」
「うーん……」ケンジは困ったように目を閉じた。
「やっぱりいやでしょ?」
「おもしろくはない」
「何よ、それ」

 ケンジはミカに身体を向けた。

「俺、君のことを疑ってるわけじゃないし、君が今更脇目もふらず先輩に突っ走ることはないって信じてる。だからさっき彼に言ったことは本心なんだ」
「もしかして、」ミカは両手でテーブルに頬づえをついて言った。「あなたが妹のマユミさんと、今も年に一度逢って愛し合ってるってことが引っかかってる? あたしに対して負い目を感じてるの?」
 ケンジは軽く肩をすくめた。
「それはないと言えば嘘になる。俺だけそんな都合のいい思いをしてる、ってことは、やっぱり引っかかってる。だから君が先輩に流れで抱かれることになっても、俺にはそれを責める権利はないと思うんだ」
「おあいこ、ってこと?」
「乱暴な言い方をすればね」

 ――ケンジと彼の双子の妹マユミとは、実は高校二年から二年半程の間、実質恋人同士だった。強く想い合い、熱く繋がり合っていた二人だったが、兄妹で結婚できない現実に、ケンジが大学一年の冬に泣く泣く別れた。
 その後ケンジは大学の先輩ミカと、妹のマユミはケンジの親友ケネスと結婚したが、ミカもケネスもケンジたち兄妹の繋がりを断ち切ったりはしなかった。二人の、兄妹を超えた強い絆と熱い想いを大切にするべく、毎年8月初めに一夜だけ、二人が高校時代のように愛し合うことを勧めていたのだった。

「でも、ケンジがマユミさんを抱くことについては、あたしに対して負い目を感じて欲しくないな」
「え? そうなのか?」
「うん。だって、マユミさんを抱くこと、って、あなた達の癒しや安らぎを求めてのことでしょ? ケンジもさっき言ってたじゃない」
「そうだけどさ」
「それって恋愛感情とは別物でしょ?」
「まあ、そうだね」
「だからマユミさんとケンジが抱き合って繋がり合うのを、あたし嫉妬したりしてないよ」
「じゃあ、俺も同じ。ミカが先輩に抱かれても嫉妬する気持ちにならないと思うよ」

 ミカはにやりと笑って言った。「ほんとにそう断言できる? 明日、ケンジが嫉妬に狂って、あたしや先輩を刃物で切りつけたりしない、って保証できる?」
 ケンジは指を組んで、そこに顎を載せた。「あの加賀拓郎っていう男性と話してて、何となく感じることがあるんだ」
「感じること?」
「あの人が本当に望んでいるのは、君に会うこととは別のことのような気がする」
「え? どういうこと?」
「拓郎さんは、君に亡くなった奥さんを重ねてるんだ。たぶん」
「重ねてる? あたしに?」
「先輩自身も言ってただろ? 君によく似た奥さんだったって」
「そうだね」
「彼はもがいてる。過去の呪縛から解き放たれたくて、もがいてる。そんな風に見える」
「呪縛……」

 ケンジは指をほどき、右手の親指を立てて自分を指さした。
「俺が同じ立場だったら、亡くなって二年も経つ奥さんへの想いに縛られて生きることは苦痛だよ。そりゃあ熱烈に愛していた奥さんだったろうから、そう簡単に忘れられるわけはないと思うけど、同じ彼女への想いでも、彼が新たに歩き始めるのを妨げるような気持ちは、彼自身早く手放したいって思ってるはずだ」
「何となく……わかる」
「それに、」

 ケンジは一度言葉を切ってミカを見た。

「あの人は偶然って言ってたけど、先輩、君に会おうとした手段を選んでないよ」
「え? どういうこと?」
「この近くのアパートに住んでる、って言ってた。でも君が勤めてたあのショップの近くに偶然アパート借りるかな。彼の会社もこの近くにあるとは思えないし」
「確かに……」
「ショップの近くどころか、店の目の前のアパートに住んでると俺は踏んでる。ショップの入り口が窓から見える部屋に」
「あるね、アパート。確かに」
「その窓からいつも下を見ながら、いつか君がまたショップを訪ねてくるのを待ち続けていた。そんなところだね」
「そこまで?」
「信じられないぐらい気の遠くなるような無謀な賭けだけどさ」
「そうだよね」
「とにかく、どうしても君に会いたかった。会ってどうする、というより、会えば奥さんへの想いもいっしょに過去の記憶に変えてしまえる、そう思ってたんじゃないかな」
「記憶……」
「後で聞いてごらんよ、先輩にさ」

 ケンジはカップを手に取った。


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