君を諦めたくない2-3
部屋に戻ると、芽衣子はすでに着替えを終えていた。
だが、ベッドの上で膝を曲げて座っている彼女の姿に苦笑いが浮かぶ。
「お前さあ、俺のお気に入りのTシャツを寝間着代わりにすんなよな。
高かったんだぞ、それ。
いつもはちゃんと自分のTシャツ着るクセに」
俺は呆れ顔になりながら、芽衣子の隣に腰を下ろした。
やっぱり彼女からの反応はないけれど。
「しかもハーパンまで俺の履きやがって。
ブカブカじゃん、パンツ見えてカッコ悪いぞ。
ちゃんと自分のパジャマ着ろよな」
芽衣子は、いつも俺が履いていたスウェットのハーフパンツまでも当たり前のように履いていたのだ。
悪態を吐いたつもりでも、なぜか鼻の奥がツンと痛む。
いくらお気に入りのTシャツだって、俺はもう二度とそれを着れない。
お気に入りのTシャツをパジャマ代わりに着ている芽衣子に文句を言っても、もう彼女の耳には入らない。
彼女が下着姿で部屋をうろついてるのを呆れて見ていたことも、彼女が見知らぬ男に襲われているのを助けたことも、何一つ知らない。
存在を気付いてもらえないことがこんなに辛いことだとは思わなかった。
ほんの一言でいいから、声が届いて欲しいのに。