君を諦めたくない2-11
彼女の唇の柔らかさ、風呂上がりのいい匂い、ほんのり湿ったままの髪の毛、規則的な呼吸、それらはあの頃の芽衣子となんら変わっていない。
よく、寝ている芽衣子にこうやってちょっかい出してたな。
そう思い出し、腫れてない方の頬をツンツンつついたり、髪の毛をクルクル指に巻き付けたりしてみた。
すると芽衣子は寝ながらも眉をひそめ、鬱陶しそうな顔になって、俺の手から逃れるようにそっぽを向いた。
「ハハッ、お前寝てんの邪魔されると嫌がるもんな。
わりいわりい」
予想通りの反応にクスリと笑いが込み上げてきて、冗談混じりに謝った。
「……ごめんな、芽衣子」
そして、そのまま腫れた右頬にそっと手を置いてみる。
芽衣子の頬に置いた手に、涙がポタッと落ちた。
そしてその雫は次第に降り始めた雨のように、俺の手に何度も打ちつけていた。