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末廣屋
【SF その他小説】

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あや-1


風の強い乾燥した日だった。

埃が風に舞って吹き上げている。道行く人々は袖で顔を覆って足早に歩く。

呉服問屋末廣屋の店先では丁稚が手桶に入れた水を木柄杓で道に撒く。

朝から何度も水を撒いているが、すぐに地面に染みて乾いてしまう。

暖簾の内から年のころ17・8の綺麗に着飾った娘が供の小女と一緒に出て来た。

「あやお嬢様、お出かけで? 行ってらっしゃいまし」

丁稚の声かけに黙って頷くとからころと下駄の音を立ててあやお嬢様は出て行く。

それを物陰から見ていた風体の良くない男が脇の男に囁いた。

「あの娘だ。一番上の娘であやという上玉だ。

あいつをかどわかして末廣屋から大金をふんだくろう」

「それより頂いてしまおうってのはどうだ。ちょうど女も2人いるし」

「それも悪くないな。その後で金を貰っても損にはならねえ」

男は2人連れで娘達の後をつけて行く。

するとどこからともなく同じような柄の悪い男たちが5人現れて、2人の男を挟むようにして歩き始めた。

「な……なんだ、てめえらは? 誰かと思えば向こう傷の政吉の仲間じゃねえか」

そこへ顔に傷のある政吉が凄みのある笑いを浮かべて2人の前に立ちふさがった。

「弥三郎と権八よう。お前達が何を企んでるのか知ってるぜ。

茶店で相談しているのを盗み聞きしちゃってよう。

お前達だけに良い思いはさせねえぜ。ここは俺たちにも1枚噛ませてもらうぜ」

弥三郎と権八は半ば諦めたように彼らと一緒に歩き出した。

政吉の声が2人に囁く。

「お前達は末廣屋から金を巻き上げようって魂胆らしいが、そいつは下手なやり方ってもんだ。

そのまま売り飛ばしてしまえば、足がつかないってもんよ」

荒くれ男が7人、か弱い娘2人の後を遠巻きに付いて行く。

そして大通りの途中で彼らは二手に分かれた。

そのうちの3人が往来の真ん中で大声で芝居を始めた。

「馬鹿野郎! ふざけるな、この野郎。てめえ死にたいのか」

「それはこっちの台詞だ。てめえこそ簀巻きにして川に放り込むぞ」

「まあまあ、お前たち物騒なことは言わんで、ここはおさめてくれ」

3人が役割を持って大芝居を打って通行人の気を引いている間に、他の4人が娘たちを抱えて路地の方に引きずり込んだ。

あっという間の出来事で娘達が連れ去られたことに気づく者はいなかった。
 


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