第五話-8
「亡くなった両親のことを完全に忘れるなんて、本当にできると思う?」
できないだろう。もしできてしまったら、両親があまりにも浮かばれない。
「過去を忘れてはダメ。どんなにイヤなことがあっても、どんなに死にたいと思っても。過去を忘れちゃったら、今の自分も否定することになっちゃうのよ?」
仲良し四人組の、今を。
「・・・うん」
「じゃあ話を戻すわね。十年だけ、凌駕をユイにあげる。その代わり、十年後には、返してもらうからね」
「・・・うん」
多分、お互いに納得なんてしていないのだろう。それでも、友達のためだと、納得したフリをして、最低な俺の提案に乗っかってくれている。
「それまで、私は凌駕と会わない」
「えっ」
思わず声を出してしまったけれど、考えてみればそれは至極当然な結論だ。
「ユイとヨッシーには、いつでも会いに行くけどね」
クラコは小指を立て、ユイの前に差し出す。
「約束だよ。十年後に、絶対に返してもらう」
「うん・・・それまでに、もっといい男、見つけるから!」
二人は小指を絡めあい、そんな約束を交わした。
かくして俺は、クラコに振られ、ユイと付き合うことになったのだった。
***
ゴールデンウイークが明けて最初の授業日。
結局、ゴールデンウイークに四人でどこかへ行くことはなく、俺はユイと俺の部屋で遊び、遊園地に行き、そして俺の部屋で遊びながら日々を過ごしていた。
「・・・」
俺の視線の先には、クラコの背中がある。
十年後まで会わないとクラコは言ったけれど、俺とクラコがクラスメイトで、俺がクラコのひとつ後ろの席であることに変わりはない。
「俺だって、いい男になってやるからな」
ただの独り言に、クラコの肩がピクンと反応した。だが前みたいに振り向いて話しかけてくることはしない。
十年後まで、俺たちは友達ではなく、恋人でもなく、ただのクラスメイトなのだから。
第五話 終