第五話-7
「ユイのためだ」
「リョウ!私は、そんなこと頼んでないよ!」
「そうだな。だからこれは、俺のエゴだ。お願いだ。クラコ」
クラコはもう一度ため息をついた後、ポケットから拳銃を取り出し俺を殺そうと・・・というのは冗談で。
クラコが取り出しのはもちろん拳銃なんかではなく、銀色に輝く小さなリングだった。
「リョウ。これ、着けて」
「あ、ああ」
受け取り、自分の左手の薬指にはめた。
「よくわからないけど、ありがとうな」
「はぁ」
何度目かわからないクラコのため息。
「どうしてそうなるのよ」
「え?プレゼントじゃないのか?」
「女の子がリングを渡して着けてって言ったら、普通は女の子の指に着けてあげるものでしょう」
「な、なるほど」
慌てて指から外し、すぐにクラコの左手の薬指にはめた。
「これ、婚約指輪の代わりね。安物だけど」
「え?」
「・・・よし。凌駕。私、もっといい女になる。だから、別れましょう」
「く、クラコ!?な、何言ってるの!?私のことは気にしなくていいんだってば!」
「気にするわよ」
クラコはユイへと歩み寄り、そっと抱きしめた。
「ユイは私にとって、大事な大事な友達だから」
それから、とクラコは付け足す。
「両親のこと、忘れる必要なんてないわよ」
「え・・・?」
「初めてこの家に来た時、違和感を覚えたのよ」
「あ」
そうだ。たしかに俺も、違和感を覚えた。だけど結局その違和感の正体はわからなかったのだけど。
「烏丸さんの話を聞いて、ようやくわかった。ユイは、両親との思い出が残るこの家を大事に、守ろうとしていた。でも、だとしたら矛盾がある」
「矛盾・・・?」
「そうよ。だってこの家には、ユイの両親の思い出が残っていないんだもの」
「あ、ああ・・・そうか。そうか!」
玄関、居間、ユイの部屋。俺が見たどのスペースにも、両親の形見の品がひとつもなかった。
俺が覚えた違和感の正体は、両親の存在を感じられなかったからなのか。
「でも、これからはみんながいるからって・・・!昔のことは、忘れなきゃって・・・!」
「忘れる必要なんてない。さっきも言ったでしょ。でも、囚われてはダメ」