第五話-3
「他に聞きたいことはある?」
烏丸さんの事情は聞いた。とりあえず俺から聞くことは何もない。
「私は、今のところは何も。ユイはどこ?」
「自宅だそうだよ」
***
俺の家から歩いて五分とかからないその場所に、俺たち三人は赴いた。
「ご迷惑をおかけしました。今回のことに限らず」
居間に通されるなり頭を深々と下げる烏丸さん。
「唯が卒業するまでもう一年もありませんけど、それまでは私が住み込みという形で唯のお世話をすることに落ち着きました」
当の本人であるユイは、部屋にいるとのこと。
「俺、ちょっとユイと話してくる」
「それなら私も」
「いや、クラコはヨッシーと待っててくれ」
俺はある提案を思いついた。
それは最低な思いつきだけど、絶対にユイを頷かせ、クラコを説得しなければならないもの。
「クラコ」
「? 何よ」
「誰にだって、幸せになる権利はあるはずだよな」
「・・・もちろん」
それだけ交わし、俺はユイの元へと歩き出す。
「・・・」
クラコに怒られるか、泣かれるか、呆れられるか、結果はわからなくても、過程は想像できる。
「よ、ユイ」
部屋にユイの姿はなかった。その代わり、布団が妙に膨らんでいる。俺はその布団に声をかけた。
「烏丸さんとは、和解したみたいだな」
「別に、喧嘩してたわけじゃないし・・・。誰が見たって、私のわがままだし・・・」
でも当時のユイは中学生になったばかりで、その頃は俺だってわがまま放題だったし。仕方ないといえば、仕方ない。
「よかったな、ユイ。天涯孤独じゃなかったな」
「私、一言もそんなこと言ってない」
「言っただろ」
天涯孤独という言葉は使ってないにしろ、身内が一人もいないとは確かに言った。
「烏丸さんのこと、嫌いか?」
「・・・うん」
「俺たちのことも、嫌いか?」
「・・・・・・うん」
「そっか」
「・・・」
「・・・」
お互いしばらく無言で、その静寂を破ったのはユイだった。
ばっとくるまっていた布団を勢いよく払い、その姿を見せる。