第四話-5
もしもユイが知らなければ、本当に自力で捜すしかなくなる。
「学校、じゃないかな・・・」
「学校・・・」
そうか。何故思いつかなかったんだ。自分の家ではなく、ヨッシーやユイの元にもいないとなると、友達がいないあいつが向かう先なんて、学校くらいしか残らないじゃないか。
「ありがとう、ユイ。それから・・・」
ごめんな。
その言葉を呑み込んで、何でもないと誤魔化す。
「ね、リョウ・・・」
早速と駆け出そうとしていた俺は、ユイに呼び止められて振り向く。
「クラコのこと、幸せにしてあげてね」
「ユイ・・・」
「別に結婚しなくてもいいけど、泣かせたら許さないからね。わかった?」
そう言うユイは今にも泣き出しそうな表情をしていて、でも俺にはどうすることもできなくて、抱きしめたくてもそんな資格はないから、ただ頷いて。
「約束する。クラコを幸せにする」
「うん・・・」
***
「三重子」
「・・・」
ユイの言うとおり、クラコは学校にいた。
俺たちの教室で、窓から部活動に勤しむ生徒たちを眺めている。
「ユイに、告白されたよ」
「そう・・・結局、したのね・・・」
「でも、断った。俺には好きな人がいるからって。三重子がいるからって」
「・・・そう」
そこでようやくクラコは体をひねり、こちらへ体を向けた。
「ねぇ、凌駕。私にはみんなしか友達がいないけど、家族はいる。でも、ユイには本当に私たちしかいない」
「・・・ああ」
「だから、私にはユイの気持ちがわからない。考えることはできるけど、それはあくまで『家族がいる私が考える家族がいない状況』にしかすぎないもの」
「他人が考えることなんて、普通はわからないものだろ?」
不意にクラコはスカートのポケットから携帯電話を取り出し、何やら操作しはじめた。
「ユイは、どんな気持ちで私たちと接していたんだろうって、考えたことある?」
「いや・・・」
「すごく、楽しかったと思う。いつも笑っていたでしょう?あれは、本心からの、泣きたい気持ちを我慢するためのものじゃなくて、心の奥底からの、笑顔だったと思うの」
携帯電話を向けられ、そこに映る一枚の写真。
俺たちが出会ってから初めて、一年の六月に全員揃って撮影した写真。
そこに映るユイは、たしかに笑っていた。