第四話-4
「クラコと、喧嘩しちゃった・・・」
曖昧な笑みを作るユイ。
どうしようね、なんて他人事みたいに言う。
「喧嘩したら、ごめんなさいって言えばいいんだ。小さい頃に・・・いや、すまん」
具体的にいつなのかはわからないが、ユイの両親は何年も前に亡くなっているのだ。そんな相手に『小さい頃に親に言われなかったか?』なんて言えるはずもない。言いかけてしまったけれど。
「ううん。でもね、謝れば済むようなことでもないんだよ・・・」
「む。それは難しいな」
「・・・前に、私には親も親戚もいないって知った時、どうして俺にだけ教えてくれなかったんだーって言ったよね」
「あ、ああ」
なんで今そんな話をするんだ?クラコと喧嘩したことと、何か関係があるのか?
「あれはね、あれは・・・」
ユイはそこで言葉を切った。
「なんだよ。中途半端に言うなよ」
「・・・私、ね。リョウのこと、好き・・・」
「・・・は?」
落ち着け気のせいだ聞き違いだそうだそうに違いない。
「私は、リョウのこと、一人の男性として、好きなんだよ」
「・・・!」
気のせいでも聞き違いでもない。ユイはたしかに今、俺のことが好きだと言った。
「だから、ね。私のことを知って、同情で好きになられてもイヤだったから、ずっと、隠してたの・・・」
「なんだよ、それ・・・そのこと、クラコは・・・」
「知ってる。ヨッシーも。そのことで喧嘩しちゃったの」
ああ・・・ようやく意味がわかった。
『付き合わないほうがよかった』
『ユイを傷つける』
『ケジメ』
クラコはユイに、天涯孤独の親友に、俺のことを諦めろと言いにきたのだろう。それで喧嘩になったということは、つまりユイはまだ俺のことを諦めてはいないということで。
「・・・ユイ」
俺を傷つけるかもって言った理由も、同時に理解する。
俺は、ユイに言わなければならない。諦めてくれと。俺はクラコが好きなのだと。
ユイを傷つけてでも、クラコが好きだと主張して、俺自身もユイを傷つけたという痛みを味わう。ユイの痛みに比べれば全然大したことはないけれど。
「俺、好きな人がいるんだ」
「・・・知ってる」
「それで、その、そいつが、というかクラコなんだけど、連絡が取れないんだ。ヨッシーも知らなくて、ここにもいない。行き先に心当たりはないか?」