第三話-1
ユイの家は、俺の家から徒歩で五分とかからない場所にあった。今の今まで気付かなかったのが不思議なくらいだ。
ごく普通の一軒家。
だけど、何かが違う。
見た目がどうかではなく、雰囲気みたいなものが俺やクラコ、ヨッシーの家とは全く違うのである。
「・・・」
玄関からは入らず、庭に回って窓から中の様子を窺う。
人の姿はない。ユイは部屋だろうか?両親はまだ仕事から帰ってきていないのだろう。
ユイに電話をかける。
『もしも〜し。リョウどうしたの〜?』
「ユイ。今どこにいる?」
『うん?家だよ。部屋でゲームしてる』
「そうか・・・」
『元気ないっぽい?クラコに何か言われた?』
「いや、そうではないが・・・親は?親は帰ってきたのか?」
『え?うん。茶の間でテレビ見てるみたい。二階まで聞こえてくるんだ〜』
「茶の間で・・・?」
俺は確認のため、もう一度窓から中の様子を窺う。無人。
家を間違えた・・・?いや、表札はたしかに『津川』だった。間違えた先が偶然同姓の津川さんの家だとは考えにくい。
ならば、ユイは俺に嘘をついていることになる。
「ユイ。お前、家にいるんだよな・・・?」
『そうだけど?』
ユイのしゃべり方は普段通りだ。嘘をついているようには聞こえない。
「ユイ!!」
俺はなんの前触れもなく、ユイの名を叫んだ。出来るだけ大声で。部屋にいる彼女に聞こえるように。
『・・・リョウ。今、どこに、いるの・・・?』
「お前の家の前だ」
『・・・そっか』
***
「お邪魔します」
ユイに家に入るよう促され、俺はそれに従って家の中へと足を踏み入れた。
玄関。施錠されていなかったらしい扉を開けて中へ入ると靴は一人分、ユイの分しか出ていなかった。
居間へ行く。
「なんだ・・・これ・・・」
ここには、本当にユイと両親の三人で暮らしているのか・・・?
窓から覗いた時は気付かなかったが、居間にはおよそ両親の存在というものがなかった。
もっとわかりやすく言うなら、まるで一人暮らしの友達の家に来た感覚。
ユイの両親が生活しているふうにはとても感じられないのだ。