第一話-8
今からユイに頼んで、俺がクラコのことを好きであるという事実を忘れてもらえないだろうか。
いや、そもそもユイは本気で告白しろと言ったつもりはないかもしれない。
ユイだって、皆と離れるのはイヤなはずだし。離れるとは決まってはいないけれど。
「告白するって言うなら、僕はリョウのこと応援するよ」
そう言い、歯磨きを開始してしまうヨッシー。
俺はどうすればいいんだよ・・・。
***
翌朝目を覚ますと、クラコが朝から勉強をしていた。ユイとヨッシーの姿はない。
「ご苦労なことで」
俺の言葉に、クラコがビクッと肩を震わせてこちらを振り向いた。
「びっくりした・・・いつから起きてたの?」
「三十秒くらい前?」
意識がはっきりするまでラグはあったかもしれないが、意識がはっきりしてからはそれくらいのはずだ。体感時間に過ぎないが。
「ヨッシーたちは?」
「とっくに起きてもう帰っちゃったわよ。着替えとかあるもの」
「クラコは帰らなくていいのかよ?」
「あと少しで宿題を終わらせられるの。最後までやっちゃうわ」
携帯電話で時刻を確認する。
7時半を少し超えていた。クラコ、遅刻しても知らないぞ。
「・・・」
クラコの背中を見つめながら、昨日ユイとヨッシーに言われた言葉を思い出す。
『明日は告白』『応援する』
もしかして、告白するなら今なんじゃなかろうか。
「なあ、クラコ」
「なに?今忙しいんだけど」
「クラコって、俺のこと、その、どう思ってるんだ?」
「唐突ね。どうって、友達だと思ってるけど、リョウは違うの?」
違わない。クラコのことは一人の女の子として好きだけれど、ユイやヨッシーも含め、大切な友達だ。
だからこそ、告白なんてしたくはなかった。付き合いたいと思っていない、と言えば嘘になるけど、でも、ユイやヨッシーのことも好きだから、今の関係に満足しているから。
「俺は・・・」
だが、意を決して俺はクラコに告げる。
何の根拠もないけれど、ユイとヨッシーは「今の関係が壊れることは絶対にない」と断言していた。
なら、仮にフラれても気持ちを伝えておきたかった。いや、伝えておくべきだと思ったのかもしれない。