第一話-3
「おいクラコ。お前は他人の家の歯ブラシの置き場所をなぜ知っているんだ」
「新品の歯ブラシなんて、洗面台の下に入ってるものじゃない。簡単な推理よ」
嘘つけ。さっきの言い方は確信的だっただろ。
毎日のように遊びに来ていたって、(未開封の)歯ブラシがどこにあるかなんてわかるはずがないだろうに。
「まぁいいや。プリン持ってきたけど、食べるだろ?」
「僕は貰うよ」
ヨッシーがプリンを一つ、かっさらっていく。
「私はいらない」
「なんでだよ。プリン好きだったろ」
「夜九時以降は、何も食べないことにしたのよ」
俺はクラコのお腹の辺りを見て、「ふーん」と言った。
「太ってるようには見えないけど」
「ありがとう。でもダイエットじゃないわ。将来的な不安よ」
そう言われて俺は「ああ」と納得した。
クラコの両親は、共にかなり太っているのだ。どうしてこの二人からクラコのような細身のお嬢さんが生まれてきたのか、不思議に思うほどに。
「じゃあ、クラコの分はユイにあげるか」
俺の言葉を聞いたクラコは、プリンを二つ奪っていった。
「日付が変わったら、食べるわよ」
起きてからじゃないのかよ。意味ないじゃん。
「というか、なに一人で二個も食べようとしてんだよ。ユイの分がなくなるだろ」
「ユイは歯を磨いてくるから、寝て起きるまで餌は与えないわよ」
「だったら明日あげればいいだろ」
しかも餌ってなんだ餌って。
「いやよ。一つじゃ物足りないわ」
「わがままだな……じゃ、俺の分をやるから」
「そう。なら、ありがたく貰っておくわ」
ユイが歯磨きから戻ってくる前に、クラコは三つのプリンを平らげる。
「っておい。なんで全部食べた。日付も変わってないぞ」
「欲求を抑えられませんでした」
将来的不安と友情はどうした。
「そういえば」
クラコがドラマに視線を移しながら言う。
「リョウやヨッシーは、彼女作らないの?」
「僕はこの間告白したけど、『あのグループには近付きたくない』って理由で、フラれちゃったんだよねぇ」
「あのグループ?」
クラコが不思議そうに眉をひそめた。
ひそめるまでもなく、俺とクラコ、それにヨッシーとユイの仲良し四人組のことだろうな。