第一話-2
「リョウとヨッシーは床で寝てくださーい!」
ゲーム画面から目を離さずに、ユイがそう言う。
俺の心の声でも聞こえたのか。
「言っとくけど、俺は自分のベッドで寝るからな」
「えー!私とクラコと三人で寝るのー?」
「なんでだよ」
どうしてもベッドを譲る気はないらしい。
ここは俺の部屋で、ベッドは俺の物だと言うのに。
「二人とも、静かにして。テレビの音が聞こえないわ」
「音量上げよっか?」
「お願い」
人の部屋でどれだけ自由なんだよ!
心の中でそうツッコミ、俺は部屋を出て一階の居間へと向かう。
「凌駕。倉敷さんたち、今日は泊まっていくの?」
ドラマ(ヨッシーたちが見てたのと同じやつ)を見ていた母さんが、そう聞きながら視線を向けてきた。
父さんは恐らく部屋で仕事でもしているのだろう。
「らしい」
素っ気なくそう返すと、母さんは「そう」と短く返事をしてまたすぐにドラマに視線を戻す。
ヨッシーだけなら月一くらいで泊まっていくが、三人ともが泊まるのはあまりない。半年に一回、多くて二回くらいか。
しかし母さんは、いやだからこそと言うべきなのか、今さら何かを言うつもりはないのだろう。
というか考えてみたら、半年に一回二回、男女四人でお泊まりというのは、気持ち悪いくらいに多いのでなかろうか。
ま、居心地がいいから別に構わないんだけども。
「んくっんくっ……ぷはぁぁぁ!」
グラスに注いだ冷えたコーラをイッキ飲みし、俺は冷蔵庫の中からプリンを4つ取り出す。あらかじめ買っておいたものだ。
プリンを持って部屋へ戻ると、ユイもドラマ組の一員になっていた。座椅子にはクラコが座っている。
「ユイ。お前ってドラマとか見るほうだっけ?」
「あんまり。でもたまぁに見るよ」
心なしか、そう言うユイの目もとは眠たそうに閉じかけている。
「おーい。そのかっこ(私服)で寝るなよー?」
「寝ないよー。まだ大丈夫」
と言ってるそばから頭をこっくりこっくりと動かし、今にも寝てしまいそうだった。
「ユイ。歯磨いてきたら?」
ドラマがCMになったところで、クラコが言った。
「歯ブラシなーい」
「洗面台の下に新しいのが入ってるわよ」
「じゃあ磨いてくるー」
ユイがおぼつかない足取りで、部屋を後にした。