ウロボロスの繁殖-6
「あの、どうかいたしました!?」
耳まで赤くなった顔を見られたくなくて、サーフィを抱き締めた。
「てーっ」
ポコンと柔らかいものがヘルマンの頭に当たる。見るとシャルが投げた枕だった。
「ぷぅっ!」
見てらんない、とばかりにシャルが顔をしかめている。
「ああ、失礼しました」
ニヤリと笑い、ヘルマンは愛娘を抱き上げる。
真相がはっきりした以上、もう翻弄はされるまい。
「サーフィ。シャルは明日から、僕の弟子として錬金術を学びます」
「え?」
「無理はさせませんから。かまいませんでしょう?」
「え、ええ……」
サーフィは流石に驚いたようだったが、機嫌を直したシャルは、ニコニコ顔で両手を振り回した。
魔法灯火に輝く白銀の髪も、ふわふわと嬉しそうに揺れる。
「せーせ?」
小さな指がヘルマンを指し、尋ねる。
「ええ、そうですね」
ヘルマンは頷いた。
「僕は君の師で、同時に……」
ああ、やはりこれを言うのはまだ勇気がいる。
なにしろ百六十年も独身で、これからもずっとそうだと思って生きてきたのだ。
ウロボロスがこの世でたった一匹とされるのは、全てを知り永遠を生きる存在は、繁殖を必要としないから。
何でも一人でできたから、他者を傍に置く必要なんてなかった。
心底から愛しい妻を得たのだって予想外。
同じくらい愛しく、驚くほどしたたかな娘を得たのは、更に予想外。
『ほら、どうしたのさ?全てを知り全てを教えるのがウロボロスだろう?』
意識の内側にある氷雪の世界で、子ヘルが励ましてくれる。
咳払いし、喉にはりつきかけた言葉をようやく声に出した。
「僕は、君の、父親です」
終