Present-7
――――それから30分後、
セリスは部屋の隅に設置されていた等身大の鏡の前に立っていた。
着替える前、彼女は今まで身に付けていたベルベットドレスをソファや椅子の背もたれにかけておいた。
今セリスは、領主からの “1つ目の贈り物”でその白くて張りのある肌をくるみ、改めて鏡の前に立つもう1人の自分と向かい合っている。
――――それは紛れもなく世界に1つしかない特注の“ウェディングドレス”。
(黒い、ウェディングドレス・・・・・)
普通純白をイメージするウェディングドレスとは全く違う印象を与える。
だが大人びてきたセリスの艶やかな雰囲気と魅力、そして熟しつつある肉体には、黒のドレスの方が寧ろ合っているように思える。
黒い生地をベースに、
胸元・両肩・手袋そしてAラインのスカートの縫い目はレースが使われ、
それぞれ共通の紋様―――揚羽蝶を象ったものが使用されている。
そして胸元付近の造りが乳房の膨らみを際立たせるように編まれていて、そこにある“揚羽蝶”が余計にセリスの胸元の白さを印象づけることになった。
念のいったことに黒・紫・青の色合いの薔薇で象られたブーケ自体も黒を基調にしていた。
またスカートの下に隠れてはいるが、彼女の下腹部に装着されているガーターベルトやレースで編まれたストッキングも今回用意されたものだった。
セリス自身そのドレスのサイズがしっくりと身体にあい、デザインが今まで見たことのないものであることに内心驚いていた。
ついつい鏡の前で何度かくるくると回りながら、その状態を再確認してしまう。
ひとしきり鏡の前でドレスの着こなしを確認し、
自分自身ドレスの出来具合に満足していることを自覚したセリス。
ここで彼女はクルリと向きを変え、卓の上に置かれている“2つ目の贈り物”に歩み寄った。
ここまでドレスを身に付けてしまった以上、
“好奇心の延長”という気分のままセリスはその蓋に手をかけた。
――――カパッ・・・・・
「 !!! これは・・・・・・」
箱の蓋をゆっくりと持ち上げたセリスは、
眼前に現れた“箱の中身”に対して思わず絶句していた。
―――それは1組の男女を模した“赤銅色のブロンズ像”。
両手で抱えられるくらいの大きさと重さを持ち、棚や暖炉の上にも置くことのできるような鑑賞用の調度品。
そして男女の像によって表現されている構図に、
セリスは身に覚えがあった。