Present-5
「宜しいのですか?パーティーの終わる時間はまだ先だし、今夜はサウスフィガロまで帰る予定で」
そんなセリスの問いかけを遮るようにして、
領主は苦笑しつつ首を横に振った。
「どうぞお気遣いなく。あれはホスト役として最低限の期限を切らせてもらったまでのこと。
昼間からお疲れの中をサウスフィガロへの帰路でまた疲れさせるわけにも参りません。
それに夜も更けております。万が一夜道で何かありましたら、それこそ申し訳たちませんから」
セリスはここで、目の前でにこやかに微笑む老領主の顔を今日初めてまじまじと見つめた。
一見年不相応ながら頑健な体つきと優雅な仕種を醸し出している。
だがセリスはここで領主とのやり取りの中から、
かつて何度か経験した覚えのある“空気”を感じていた。
それはセリスに惹き付けられてきた男達が、
あからさまにすることなく表現してきた“欲望の空気”。
この“空気”を感じた後に、その男の欲望に翻弄されてきたセリスには間違う筈のない空気だった。
しかも彼の口から、以前その“空気”を持ち、その欲望を“具現化”したアウザーの名前が飛び出したばかりなのだ。
(彼も・・・まさか・・・・・・―――――)
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
************
―――それから1時間後、
―――館別棟の一室
本館の喧騒が微かに聞こえてくるくらいの静けさの中、
セリスは領主自らに案内されて別棟に用意された部屋にいた。
『―――どうぞごゆっくりなさってください。エドガー陛下も恐らく酩酊されているでしょうから、別途部屋を設えてそちらで休んでいただきましょう』
『お気遣い、本当に感謝致します』
『いえいえお気になさらず・・・あと部屋の方にセリス様の為に“贈り物”を2つ用意させております。
お休みになるまでに時間ありましたら一度ご確認ください』
『そんな、何から何まで・・・・勿体ないことです』
『セリス様のお気に召すとよいのですが・・・それでは、これにて』
―――ギィィィィ・・・・
―――バタンッッ・・・・
「・・・・・・」
つい先程領主と交わした会話がセリスの鼓膜の底で反芻される。