Present-20
「・・・・時にセリス」
「何、エドガー?」
「今回セリスは領主から何か贈り物はあったか?」
「贈り物?・・・そうね、私の身体のサイズに合わせたドレスを貰ったわ。
ちょっと趣味が良くないから、あまり着ることはないでしょうけど」
「何だ、勿体無いな」
「エドガー、またいやらしいこと考えてるでしょ・・・・・で、エドガーは何か贈ってもらったの?」
「確か・・・・帽子に靴にマントに置時計に・・・色々だったな。好みの問題になるから、私の方も普段身に付けるかどうか疑問だがね」
「・・・・・・・」
傍らであきれた口調で話すエドガーに対し、
セリスは口許にうっすらと微笑みを浮かべたままで その場を流した。
―――ガラガラガラ・・・
馬車の窓のへりに右肘をもたれかけさせながら、
セリスは窓から入ってくる外気を顔に浴びていた。
既に昼前になろうとしているせいか、太陽の強い日差しがやや強いものになっている。
「・・・・・」
突如乳房が背後から両手で揉みし抱かれる感触が蘇り、セリスは無意識に自らの胸元に両手を這わせる。
無論上下に激しく揺れる馬車の中ということもあり、その動作がエドガーの目につくことはなかった。
(・・・・私への贈り物も全部で“3つ”だったわね)
心の中で数を数える。
1つ目は先程エドガーにも話した
“黒いウェディングドレス”。
2つ目は領主経由という形だったが、在りし日のセリスとアウザーを表現した
“ブロンズ像”。
これはエドガーにも知らせることなく、現在は運ばれている荷物の奥の奥に埋もれている。
そして3つ目は、あの黒いドレスを身に付けて老領主と過ごした
“一夜の思い出”。
「ン・・・・・・」
窓越しに流れ行く風景を眺めながら、
セリスはため息と共に自らの舌で下唇を嘗めていた。
何でもない所作であるが、エドガーと結婚して王妃になるまでは見せたことのなかった無意識の所作。
「・・・・・・・」
王妃という立場で、
次はどのような“出逢い”が待ち受けていることか。
甘美な背徳の味を堪能する機会に胸をときめかせているセリスを乗せて、
フィガロ国王夫妻の一行は港町サウスフィガロそしてフィガロ城に伸びる道を疾走していくのだった――――――
――― 完 ――――