ニンゲンシッキャク-24
「光栄の……、至りです」
「あなたの小説、読んだわ。こんなに戦慄を覚えたのは、初めて。この絵は、あなたの小説がわたしに与えてくれた物よ」
「では、この絵を頂けませんか」
芥川くんは、哀しそうに笑っていた。
「その為に描いたの」
わたしは、手作りの額ごと彼に手渡した。
「代わりと言っては何ですが、これを」
カバンから原稿用紙の束を取り出す。
「何?」
「オリジナルで、没になった物です。出版社に影響が大きすぎると拒否された物で、曰く付きですが棟方さんになら任せられる。捨てて下さっても、読んで保存するも任せます」
ガシャッ。
芥川くん。あなたはどんな想いで、何時も小説を書いていたの。わたしは、あなたには追い付けなくなってしまった。どうして、何時までも筆を持っていてくれなかったの。わたしは解らない。
ガシャッ。
けれどね、今なら解る気がするの。だって、手首にたくさんの腕時計をしなきゃいけなくなったんだもの。あなたのせいよ、愛人の芥川くん。
いつかは、太目のチョーカーだって必要になりそう。再会した時は言ってよ、死も芸術の一つだって。
「身代わりの人」
モチヅキ テラウ
止めたくない。皆と一緒に、卒業したいんだ。
高校に合格してからの事だった。
「あなたは、望月家の跡取りなのよッ!」
母親は合格通知を見せた途端に、俺を怒鳴りつけた。
「……知ってる」
「なら、解っているでしょう」
チーン、と仏壇の鈴(りん)を鳴らす祖母。俺は居た堪れなくなっていた。畳の部屋で、正座も苦しいが。
「解っているけど、解らない」
「衒ッ!」
パンッ、という小気味良い破裂音が部屋に響いた。音だけはしたが、実際あまり痛くは無かった。むしろ、鈍い音の方が痛い場合は多い。
「解らない、何で俺が和菓子職人の跡取りなんかしなきゃいけないんだッ!」
そして、俺は条件を出した。卒業するまで待ってくれるなら、跡を継いでも良いと。
そうして、一年半が過ぎた。落ち着いて、学校に通えるようにもなり、友達も出来た。毎日、楽しかった。このまま、ずっとバカやっていたいと思っていた。
「お父さんが死んだわ」
不幸というやつは、いつだっていきなりやってくる。
「高校を辞めて、和菓子の修行をして」
急な話だった。俺は呆然としていたが、すぐに反論した。
「待てよ、約束が違うだろ!」
「例外よ、今すぐ退学届を出してきて」
母親は、ムカつく程に冷静だった。
「嫌だ!」
「行きなさい!」
「嫌だ!」
「行きなさい!」
「嫌だ!」
「衒! いい加減になさい!」
終いには、家から追い出された。
俺、もう解んねぇや。三百年続いているから、何なんだ。息子の未来まで潰して、やらなきゃいけない事かよ。