ニンゲンシッキャク-17
「終わっただろ、早く教えろって」
三ページ分の口語訳が終わり、俺は手塚に迫った。これの答えで、俺の概念が綺麗サッパリ変わってしまうかもしれない。そんな、恐怖と闘いながら。眼鏡は、右手の人差し指を軽く振る。
「明日っていうのは、今日の次の日でしょう? という事は、常に明日。明日は、わたし達には永遠に来ないのです!」
鼻先に手塚の人差し指が掠る。
「ちょっ……、危ねぇな!」
「あ、ごめん……。危害を加えるつもりは無かったよ。多分」
「こンの……、手塚バカ!」
「あーッ、人の事バカって言ったー! バカって言った方がバカなんだー!」
「理系バカ! 数学バカ! ……あー、もういいや。シッシッ」
「何よ、それー!」
手塚曰く、明日は来ない。明後日も来ない。明々後日も来ない。昨日、一昨日、一昨昨日(さきおととい)が来ないのは知っていた。うん、だってソレは過去の話だから。って事は、俺達に未来は無いって事なのか? いつまで経っても、辿り着けない世界なのか?
明日は、無いのか?
*タイトル参考
「明日もあるさ」坂本九
*参考歌詞
「悲しみは駆け足でやってくる」アン真理子
「学生の本分の為の本文」
ノグチ ユウゾウ
学生の本分は、絶対的に勉強なんです。ぼくが高等学校に進学したのは、その為です。決して親の言うことを聞いているわけではありません。
Bクラスは特待生や中途編入者、一芸入試合格者や推薦入学者が多いようです。だから、ある意味一番特殊なクラスなのだとぼくは考えています。例えば、入学試験をトップで通過した特待生の明智くん。都立のトップ高校だと言うのに、中途編入者である志賀さん。学校側から是が非でもと望まれた棟方さんや、津田川さん。
じゃあ、ぼくは?
ぼくの父は、開業医です。ぼくの母は、レントゲン技師です。しかし、それはあくまでもぼくの家族です。ぼくではありません。
「悠三は好きな事をしなさい」
両親は、よく言います。決して、ぼくに学業を押し付けません。家業を継げとも言いません。けれど、ぼくは押し付けて欲しい。出来れば、強要して欲しい。お前は、医者になるのだと。ならなくてはいけないのだと。それ以外に道は無いのだと。
世の中には、そういう子供もいるんです。
「積極消極結局月極」
ハンダ コテツ
取り柄は、元気なこと。其れ以外無し。俺って、かなりサイコーにバカっていうか、アホっていうか、マヌケらしい。うん、多分親が言うんだから間違い無いんじゃないかな。
「半田、半田ッ! これ、読めるか?」
黒板に白いチョークで書かれた字。